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 デビュー半年から一年以内前後の、一桁台階層で下積みを重ねるビギナー。

 最初の関門と呼ぶべき十階層フロアボス討伐を経て、十番台階層で活動する下位。

 二十番台から四十番台階層を狩場とし、年収が億に届く者も出始める中堅。

 五十番台階層以降の怪物達を日々相手取る、才覚と経験とを兼ね備えた、ひと握りの一線級。

 そしてDランカー。


 年二回、クリーチャー討伐ポイントや社会貢献度なんかの累計で選出される上位千人のDランカー以外、探索者シーカーに書類上の明確な区分は存在しないが、現場では大体こんな感じで振り分けられてる。

 とは言え、スキル次第で特定のエリアやクリーチャーに特効を持つ者も珍しくない。近似の階層帯を彷徨く連中でも、収入や実力は案外バラつく。


 中でも下位は、最も明確に貧富の差が出やすい。


 大抵のダンジョンに於いて十番台階層で一日かけて狩りを行った場合の収入は、上手く運んで十万円弱。

 ソロなら総取りだが、パーティの場合は人数分だけ目減りする。

 そこから各消耗品の補充、武器防具の整備代、怪我の治療費、その他諸々を差っ引けば足が出るケースも間々ある話。


 まあ支援協会とて、全体の六割を占めるビギナー及び下位探索者シーカーの中でも少なからぬ者達が厳しい懐事情を抱えていることなど百も承知。

 故に協会登録一年以内は薬品関係が半額で買えたりなど様々な救済措置を取っているものの、人数が人数。やはり十全なサポートは難しい。


 ……とどのつまり、十番台階層では殆どソロだったことに加え、本来なら短くとも二年三年はかかるところを三週間で中堅のステージに進んだ俺は、認識が足りなかったのだ。


 装備なりスキルなり実力なりが足りず、パーティを組んでさえ二十階層フロアボスが倒せずに燻っている下位探索者シーカーの多さと、そいつ等の相当数が装備のメンテ代すら切り詰めているという現実を。






「はー、すげえ。縫い目とか全然目立たないし、生地も突っ張らない」

「革鎧まで綺麗に直せるなんて……え、本当に本職の人じゃないんですか?」

「おい次は俺が頼むんだ! 割り込むな!」


 素人仕事だし一着千円で構わんと言ったら、両手の指を埋めても余る人数が寄って来た。

 断ると負けな気がしたので片端から取り掛かると、出来栄えを見て自分も頼むと名乗り出る輩が続出。


 挙句、男性更衣室だってのに女性探索者シーカーまで複数名、列に並ぶ始末。

 一着片付ける毎に慣れ、精密性を保ったまま速度を上げ続け、最終的にインナーシャツの修繕くらいなら三分を切ったものの、やっと人垣が捌けた頃には、もう真夜中だった。


「俺ァ服屋じゃねーんだぞ……」


 椅子の背もたれに体重を預け、テーブルに目を向けると、大量の千円札。

 三着四着と頼んで来る奴も居たから、総額ざっと十数万円。


 ダンジョン入る前に滞在費も交通費も稼いじまったよ。

 免罪符消滅。悪いなカミサマ。


「……いや待て待て、逆に考えようぜ俺。これで煩わしいこと考えず、純粋にダンジョンを楽しめるようになっただろ」


 免罪符とか、もう知らん。

 武器があろうと無かろうと、防具が継ぎ接ぎだらけだろうと、俺はこの初見のダンジョンに挑みたいんだよコンチクショー。


 だが流石に、ちょい休憩。





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