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土地勘の無い街をスマホ無しで練り歩けば高確率で道に迷うと知った今日この頃。
道行く女子高生に屋台のクレープと引き換えで案内を頼めなかったら遅刻確定だった。
「ここか……ここ、か?」
必要経費五百円を経て辿り着いた目的地。
そこは、剣工の仕事場と呼ぶには些か以上に奇妙な門構えだった。
「駄菓子屋じゃねーか」
昭和の風情漂う木造平屋建て。
築百年は経っていよう、この敷地内だけ時代の流れに取り残されたかの如き佇まい。
よもや先の女子高生に担がれたか。クレープ奢らせといて、とんだ悪女め。
そんな猜疑心が鎌首をもたげるも、木枠のガラス戸に貼り出された広告が目に入る。
「『
なんともはや。張り紙まで昭和臭。
少々信じ難いが、どうやらこの駄菓子屋こそ、水銀刀を造った職人の仕事場らしい。
「や、表の店に客とは珍しい」
「あァ?」
会計と書かれた箱に代金を滑り込ませ、今や殆どが絶滅種と化しつつある駄菓子達を食べていると、奥から人影。
「尤も、本業の客も決して多くはないがね」
作務衣を着た、白髪混じりの老人。
枯れた細腕に抱える段ボールを下ろし、自虐とも取れる台詞を気にも留めてなさそうに紡ぐ。
「んぐ……挨拶もせず失礼。古い邦画でしか見たことない菓子ばかりだったもんで、好奇心を抑えられなかった」
「構わないとも。どうせ趣味で続けてるだけの店だ」
土間を落とした駄菓子屋スペースと畳張りの居住区を隔てる段差に腰掛け、からから笑う老人。
「もしかして、昨日電話をくれたお客さんかな?」
「お初に、藤堂だ。となるとアンタが」
奇剣シリーズの製作者、
そう問いを向けるより先、老人は苦笑気味に首を振った。
「果心は私の孫だよ。今、地下で炉に火を入れてる」
店の隅にあった階段を下り、まず目にしたのは所狭しと通路に整列するガラクタ。
老人──果心氏の祖父殿曰く、全て奇剣の失敗作らしい。
墓標さながらに並べてあるのは、子を
「あの子は突き当たりの部屋に居るよ。じゃあ私はこれで」
手早く告げ、そそくさ踵を返す祖父殿。
なんだなんだ。
「ああ、そうそう。あの子と話す時は出来るだけ目を合わせない方がいい。手の届く距離に近付くのも危険だ」
「どーゆーこった」
問い質す暇も無く、およそ人間相手とは思えぬ忠告を置き土産に、老人らしからぬ機敏さで消えてしまった。
……職人は気難しい輩が多いと聞くが……大丈夫、だよな?
ひと言で述べるなら、全然大丈夫じゃなかった。
「貴様が……貴様が
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