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 留年予備軍なリゼと違って単位の取得を前倒しに進めていた俺は、今更一週間や二週間ばかり大学をサボったところで痛手は無い。

 故に思い立ったが吉日。リゼの家を出たその足で早速、北海道に向かう。


 向かう。

 ……向かう。つか戻る。


「随分早い帰りね」

「ちょっとスマホ貸してくれ」

「ん」


 東北方面は出向いたことが無い。況してや北海道とか、どう行けばいいのか全く分からん。

 ついでに先方の予定を窺った上でアポも取らねぇと。仕事場に事前連絡無しの訪問とか、いくらなんでも非常識。


「パスワード認証とは古風だな。番号は?」

「アンタの誕生日」


 何月何日だったっけか。忘れた。






 紆余曲折を挟んだものの、目的地の函館までは成田から飛行機で一本だった。


 この夏三度目の空の旅。尚、今回の座席はビジネスクラス。

 何せ俺の体格だとエコノミーは隣の客の迷惑になる。

 あと前の客にも。股下が殆ど一メートルある所為で、どう脚を畳もうと身動きする度、背もたれに膝が当たる。凄まじく気ぃ遣ってしょうがない。


「なんで公共の乗り物ってのはこう、規格が小せーんだ」


 とは言え、日本人の平均身長を二十センチ以上もオーバーしてりゃ仕方ねぇか。

 無駄にデカいと時に不便だ。






 いざ来たれり、函館。


 函館市内には探索者支援協会、延いてはダンジョンがあるため覗いて行きたいけれど、今日のところは断念。

 武器無いし。新しい防具も、まだ届いてないし。


 第一、フラフラ寄り道などしては約束の時間に遅れてしまう。


「しかし連絡入れた次の日に来いとは。話が早いっつーか、性急っつーか」


 奇剣シリーズの製作者はフリーランスの職人で、商品の扱いは支援協会を通した委託販売が主。

 まあ支援協会への委託云々は大体どこの業者も同じだが、個人営業では素材持ち込みやオーダーメイド希望の顧客に対し、大企業のように人員を派遣しての受注が難しい。


 よって、こういう相手に注文生産を依頼する場合、基本的には客側が訪ねる。至極当然の話だけどな。


 ……思い立ったが吉日なんて言って、ぶっちゃけ向こうのスケジュールと合わなければ待つしかなかったため、トントン拍子に進んだのは実に幸い。

 そこら辺を考えると、本当に吉日だった模様。月彦さんツイてるぜ。





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