122






「で、結局押し付けられた槍がコレよ」


 講義が終わった後、リゼを伴い彼女のマンションに場所を移す。

 圧縮鞄に入れておいた得物を引っ張り出し、カーペット敷きの床に置く。


「……触った感じ、柄の木材も穂の鋼材も、かなり上物ね」


 映像データを支援協会に送って問い合わせたところ、昼飯前に返答が届いてた。

 こういう事務的な対応はホント得意だよな。


 木材の方は、恐ろしく凶暴で目に映るもの全て食らい尽くす樹人トレント『オテサーネク』のドロップ品。

 鋼材の方は、砂地や岩場に潜み、周囲の鉄分を集めることで金属の武器を作り出し、攻撃手段とする幽霊レイス『メタルコンダクター』のドロップ品。


「どっちも聞いたこと無いわ」

「オテサーネクの方は古い映画で観たから知ってる。しかしアレはチェコの民話に登場する怪物の筈なんだが、何故ペルーに……ま、いいか」


 日本のダンジョンにだって、海外発祥の神話や伝承に基づいた化け物は幾らでも出る。ゴブリンなんかが最たる例だ。

 クリーチャーが湧く際は、周辺一帯の大衆が深層心理内で抱く怪物像を投影し、己を形作るという説もある。もしかするとダンジョンゲート近くにチェコ出身の人が住んでたのかも。


「何にせよ、海外旅行の土産には過ぎたオモチャだ。吉田め、ちゃんと価値分かってて俺に寄越したんだろうな」


 オテサーネクもメタルコンダクターも、共に四十番台階層クラスのクリーチャー。ドロップ品の性能は、加工次第でハイエンドモデルにも届くらしい。


 こんな代物を用意出来る部族とか、ゲートの管理でも任されてんのかよ。吉田の野郎はマジでペルーの何処に流れ着いてたんだ。

 流石に海外のダンジョン分布なんて有名どころ以外、殆ど知らん。


「でも良かったじゃない。水銀刀壊れたんでしょ。ちょうど新しいのが手に入ったわよ」

「材料は一級品でも造り込みが粗過ぎる。そもそも対クリーチャー戦を想定した設計ですらねぇ。完全に獣相手の狩猟用だ」


 このまま使ったところで、発揮出来るパフォーマンスは水銀刀未満。

 俺の身体能力は『豪血』を使い続けるほど鍛えられる。深度を上げていたとは言え、過去の膂力に耐えられなかった武器より劣るものを用いる気は無い。


 ――正直、八尺様との決戦だって水銀刀より上の得物があれば、リゼを酸欠と栄養失調にさせずとも済んだ。

 

 俺が武器防具に無関心だったとまでは言わないが、優先順位が低かったことは確か。

 今のままでも十分に戦えると満足し、十全を目指さなかった。八つ当たりも同然に金を厭うあまり、大金が必要な買い替えを避けていた。

 恥ずべき慢心、傲慢だ。己の力量を最大限に引き出せる装備一式を取り揃えるなど、探索者シーカーとして基本中の基本の基だろうに。


「尤も、部屋の隅で腐らせるには勿体ねぇ。職人に作り直させようと思う。軍艦島のあれこれで纏まった金はあるしな」


 所見を述べると否は無いのか、ベッドに寝転がって緩く手を振るリゼ。

 あとは持ち込み先だけれど……それについては、ひとつ候補が。


も、まだ手続きに時間食うし。その間、ちょいと行って来るわ」

「……どこに?」

「函館」


 一部に熱心なリピーターを持つ、奇剣シリーズとやらの製作者。

 とどのつまり――水銀刀の、生みの親。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る