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「ホガライ・モガンガ!」


 ………………………………。


「ハガ、ハガハガ! ハガラッチ!」


 ……………………。


「モバリガモバルガモルモルモロロリカ!」


 …………。


「さて。休み明け最初の講義なんだったか」

「ちょいちょい月ちゃん! 親友相手にシカトはドイヒー!」


 黙れ近寄るな、誰だ貴様。

 俺には、お前のようなアフリカ奥地かアマゾン森林地帯の少数部族みたいな知り合いは居ない。

 大人しく故郷へ帰れ。


「俺よ俺! 俺ちゃんだってば!」

「まさかのオレオレ詐欺……流行の時差が半世紀以上もあるとは、流石未開人」

「おーれーちゃーんーだー! 吉田だよ吉田!」


 ……ああ。なんだ吉田か。






「もー! 暫く振りだってのに、ひっでーな!」


 戦化粧を拭い、奇天烈な風体を現代日本に沿う服へと戻し、憤る吉田。

 いやこれ俺が悪いのか? チャラ男から部族の戦士にクラスチェンジなどされては恐らく親でも気付かんぞ。

 と言うか、あの装いで往来を練り歩いて、よく職質されなかったな。

 

「モガルモガル、ニポンジン冷たいヨ! 大学来るまでにケーサツから三回も職質されるしよー!」


 されたんかい職質。

 当たり前か。あんな格好でも呼び止められないのはハロウィンかコミケ会場くらいだ。

 なんなら、それだって割と怪しい。


 ……しかしコイツは一体、休み中に何処へ行ってたんだ?

 ドイツだとかハワイだとか聞いた気もするが、さっきのは明らかに違うだろ。

 言葉も節々が変に訛ってるし。


「海外旅行はどうだった」

「おー! それが聞いてくれよ、ハワイに行く途中で飛行機が墜落してさー!」


 今なんつったコイツ。


「運良く海面に不時着は成功したんだけど、そん時のショックで俺ちゃん機体から投げ出されて。どうにかこうにか折れた翼の一部に掴まって、荒波に揉まれつつ太平洋を漂流したワケよ」


 なんで生きてんだコイツ。


「海が大シケ続きで流されまくって、一週間くらいでペルーの海岸に打ち上がってさ。そしたら現地の部族の人達にクリーチャーと間違われて狩られかけて」


 ホントなんで生きてんだコイツ。


「で、色々あった末に仲良くなって、帰国のために日本大使館と連絡取れるまでの間、お世話になり申した感じです」

「波乱万丈どころの騒ぎじゃ済まねぇ夏を送ったな、お前」

「いやーはっはっは」


 笑い事かオイ。本出せるレベルだぞ、下手すりゃ映画化まで行く。


 想像だにしなかった壮絶体験に開いた口が塞がらん。

 絶句する俺を他所、吉田は何やら奇妙なつくりの巾着みたいなものを取り出した。


「そうそう、月ちゃんに土産があんだ。なんか部族主催のテーマパークイベントをクリアした時、このマジックバッグと一緒に貰った景品」

「テーマパーク……?」

「おうともさ! 俺くらいの歳の奴等と一緒にやったぜ!」


 そいつは部族特有の成人の儀式とか、そういう類のものじゃないのか?


「ほい! いい槍だろ、月ちゃんにピッタリ!」


 渡されたのは、穂先から石突きまで二メートル近い短槍。

 構造こそシンプルだが、色も質感も自然界のものとは思えない。

 どう見ても、ダンジョン産の素材で作られた武器。


「貰ったは良いけど兎に角まー邪魔でさ! 袋の方は有難く使う予定!」

「俺は廃品回収業者じゃねぇ」






「ところで、さっきのは世話になった部族の言葉か? なんて言ってたんだ」

「へ? さあ? 結局あの人達の喋ってる内容、全然分かんなくてさ。それっぽくテキトーに真似してただけだし」


 なんつう、いい加減な奴だ。

 ……おい待て。そんな苦し紛れで日本大使館と連絡を取れた上、成人の儀式を受けられるほど溶け込んだのか。


 このチャラ男は案外、凄い奴なのかも知れない。





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