119・閑話1






 星を見た。


 長い長い階段を、下り下った終着点で、星を見た。

 霧と朝闇の奥で、血臭漂う廃都の底で、星を見た。


 同じ地表を這い回り、鮮烈に輝く、荒々しい星を。






「ハハッハァ! くた、 ばり、やが、れぇっ!!」


 最初に聴いたのは、上で二度会った、魔獣のような男の高笑い。

 最初に見たのは、その彼が、共に居た死神のような女の鎌を借り、名とチカラを隠したままでは少し手を焼くクリーチャーの首を刎ねる瞬間。


「あいつら……八尺様を、二人で……!?」


 そう呟いたのは、私の集めた頭数。目の前で倒されたばかりの怪物を、危険少なく仕留めるため、必要と判じた十二人の誰か。


「あぁああ、五回くらい死んだかと思った……つーか現在進行形で死にかけだな、こりゃ……ハハハハハ」


 満身創痍に反し、口舌を彩る感情の大半は、信じ難いことに喜悦。

 一方で、鎌を返された女には体力的な消耗の激しさこそ如実に窺えたものの、身体どころか防具にも傷ひとつ見当たらない。


 ――まさか。守り切ったのか。たった一人で。


「……ンン? なんだ、てめぇ等。ガン首揃えちまって、まあ」


 彼が私達に気付く。恐らく殆ど見えも聞こえもしていないだろうにも拘らず。

 常人どころか修羅場慣れした探索者シーカーすら立っていられないような傷と、生気が失せた肌の色。

 しかし、おくびにも出さず此方に歩み寄り、一瞬だけ全身に光の筋を奔らせ、諸手を上げる。


「遠方より遥々お訪ね頂いたところ悪いが、八尺様なら今ブチ殺したとこだ。マッチアップ希望の奴はリポップまでステイ。一ヶ月くらいだったか?」


 半ば死に体だと言うのに、上で会った時よりも明らかに増した存在感。


「ついでに、無駄とは思うが一応聞くぜ。お前等の中に血液型がタイプ・ブルーの奴、居るか? 失血で死にそうなんだよ、少し分けてくれると助かる」


 風でも吹けば倒れる有様で、意にも介さず男は笑い――瞳を焦がす凶星の如き昏い光を、強く強く瞬かせていた。





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