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如何に八尺様の腰が引けてるとは言え、いつまでも駄弁りを見過ごしてはくれまい。
手早く流れを説明し、リゼの肩を叩く。
「てな運びだ。お前の絶妙なコントロールに期待するぜ?」
「……ちょっと待って」
さて行こう、よし行こう、早速始めよう。意見反論の類は後日の受付時間内に頼む。
今この場に於いて、時の流れは敵と思え。
「その作戦、私が滅茶苦茶しんどいじゃない……もう相当『
「大丈夫大丈夫。不摂生の化身たるリゼちーなら頑張れるって」
「アンタ後で殴る」
化身呼ばわりは流石に怒るか。でも間違い無く不摂生ではあるだろ、菓子星人め。
ともあれ、目尻を吊り上げる元気があれば上等だ。
「どうにか頼まぁ」
「……ハァ、分かったわよ。アンタこそ足止め
そん時、生きてたらな。
ま、お前が逃げるくらいの時間だけは何があろうと稼いでやるから安心せい。
嫁入り前の女をダンジョンで死なせたら、恥かくのはパーティ組んでる俺だし。
ところで。
「罰ゲーム?」
「そうね……今後、私を呼ぶ時は『リゼちー』で固定とか?」
絶対ミスれねえわ。
俺のキャラで常時リゼちーはキツい。
「ハロー八尺様。待たせて悪かったな、何せトークが盛り上がったもんで」
水銀刀を肩に担ぎ、鷹揚な所作で八尺様に再び近付く。
強い警戒の眼差し、失くした左腕を気遣う動き、前屈みながらも半歩引いた立ち姿。
……やはり守勢そのものが板に付いてねぇ。
尤も都市伝説のバケモノなんぞ、人を襲うばかりで襲われる立場になるとか考えもしないだろうし、当然か。
本来のチカラが拝めねーのは残念至極だが、相手は
何より、我が相方様の作り出したシチュエーションだ。十二分に活用するさ。
鞭モドキが届く間合いの境界線に差し掛かり、足を止める。
「豪血――」
スキル発動。全身の動脈をなぞる赤い輝き。
モーションは、なるべく大袈裟に。
「――『深度・弐』――」
満ち満ちた膂力が更に跳ね上がり、万能感すら生む。
同時に血が損なわれる勢いも加速度的に増し、漂う霧の粒すら見分けられるほど研がれた感覚が、この状態を保てる刻限を俺に伝えてくる。
「持って三十秒、だな」
あわよくば深化でそのまま力押し……とも考えたが、時間が足りない。
向こうが本来の攻撃的なスタイルを出していたならそれを採用したけれど、亀の如く甲羅を被った現状を数十秒で突き崩すには、今の俺の膂力に耐えられる武器が要る。
防具同様、水銀刀もボチボチお払い箱か。得物に足引っ張られちゃ仕方ない。
兎にも角にも、今回は頭使って勝たせて頂こう。
「七手詰めってとこか」
勝負で策を弄するのは嫌いじゃない。
単純に力と技をぶつけ合うのも勿論大好物だが、仕掛けた思惑に嵌めるってのもまた別種の快感と達成感がある。
「さぁて……始めましょうか、ねぇっ!!」
果たしてコイツは──俺達の罠に、気付けるかな?
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