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 ――イメージは、巧みなアサシンプレイでSチューバーとしても人気の高いDランカーが体内ナノマシン記録から配信した動画。


 同じくナノマシンによる五感取得情報再現システムを用いることで擬似体験した動き。

 フレームレートが足りず所々が、その細微な所作に至るまでを思い出し、俺に合わせてカスタムした上でトレースする。


 呼吸を殺す。気配を鎮める。荒々しさを排除する。

 特殊な歩法で足音を完全に消し、それでいて素早く駆け抜け、標的を間合いに捕らえる。

 ……やけに容易くて、微妙に腹が立つ。


 一瞬チラついた感情の棘を察知したのか、振り返ろうとするクリーチャー。

 しかし問題無い。警戒のリソースには限度がある。背後に意識が傾けば、それまで正面にあった注意は薄れる。

 視点の動きに合わせ、常に死角へと入る形で、回り込んだ。


 コイツと戦ったことは無いが、完全な人型であることが災いしたな。

 身体の基本構造が似通ってるなら、つまり急所も人間と大きくは変わらん。


「豪血」


 一秒足らずの『豪血』発動。

 水銀刀の切っ尖で頸椎を捉え、打ち込んだ運動エネルギーを外に逃さず、体内で炸裂させる。


 力無く、クリーチャーは倒れ伏した。






不意打ちバックスタブ上手いのね。ロクにやったことも無いのに」

「極めて不本意だ」


 五感全てで体感した情報が基とは言え、やっててストレスの溜まる技術を、すこぶる簡単に再現出来たのが余計ムカつく。

 対クリーチャー合気柔術とか、コツを掴むまで四回も動画見直したのに。


「まともにぶつかれば、それなりに手のかかりそうな奴だった。戦いもせず強敵を仕留めるのは、つまらん」

「いいじゃない、楽に終わるなら。忍者みたいだったわよアンタ。男はみんな好きなんでしょ、忍者」


 その「やだ、男って単純〜」みたいな口ぶりヤメロ。

 確かに忍者は好きだが、なりたいとは思わん。俺が目指す理想のスタイルは、どちらかと言えば剣闘士グラディエーターだ。


 ……まあ、これも少しでも万全に近い状態で八尺様と戦うため。延いてはリゼのポイントリードを防ぐためか。

 欲しい装備のために見たくもない金を集めるのと同じ。目的を果たすには我慢も必要だ。


 何より、ストレスが嵩むほど、そいつを解き放つ時の快感も高まるもの。

 全部全部、八尺様へのツケとして、来たるべき応報の時を楽しみに待ち焦がれさせて頂こう。


「はああぁ……早く会いてぇなぁ……」

「そいや」

「あ」


 路地裏に居る俺達の前を無警戒に通り過ぎたクリーチャーの首を刎ねるリゼ。

 詰めたと思ったポイント差が……。





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