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 四十一階層から五十階層。

 難度六ダンジョン軍艦島の最深部を形作るのは、朝方なのか夕暮れなのかも分からないほど濃い霧が立ち込めた、廃墟だらけの『廃街エリア』。


 夜街エリアと廃村エリアを足したような名称。景観や雰囲気も同様。

 ただし出現クリーチャーは、一体一体が牛頸や姦姦蛇螺をも優に凌ぐレベル。


 しかも。


「広いな」


 腕輪型端末で四十一階層のマップを表示すれば、大都市にも劣らぬ規模。

 この分では最短距離を抜けようと、五十階層まで半日かかる。


「ついでに十メートル先も見えやしねぇ。ここの地図を作った奴は働き者だ」


 尤も、大抵は『地図作成』や『オートマッピング』なんかのスキル習得者が纏めたデータを使ってるんだが。


 地図系は鑑定系と同様、ダンジョン黎明期は必須とまで言われたスキル系列だけれど、殆どのダンジョンの測量が終わった現代に於いては無用とされてる凋落シリーズのひとつ。

 中にはクリーチャーの位置を教えてくれる『レーダーマップ』みたいな別の面で高い効果を発揮するものもあるから、鑑定ほど不憫ではないが。


「地図系とか、なんでダンジョンの外だと使えねぇんだろうな? 鑑定系もダンジョン由来のモノしか対象にならんし」

「さあ」


 一説にはダンジョンの発する特殊なエネルギーを発動の触媒にしているからとか。

 まあ強力なスキルほどリスクはつきもの。見たり触れたりするだけで物品の詳細が分かったり、周囲の地理情報が把握出来るなんて芸当、それくらいの縛りがあって当然か。






 四十番台階層のクリーチャー相手に逐一戦闘を挟んでいては、血が何リットルあっても足りやしない。

 故に討伐は後続に任せ、俺達は必要最低限の交戦のみで五十階層を目指す。


「今の奴、クリーピーパスタの殺人鬼だったな。ああいうのも居るのか」


 エリア全体を覆う深い霧は、相手側にとっても索敵の妨げとなる模様。

 二人だけで先行した甲斐もあり、取り敢えずのところ上手く接敵は避けられている。


 とは言え、隙だらけな背中を晒したクリーチャーを殴れないのは、やはりストレスだ。


「クッソ、戦いたかった。ステルスアクションとか性に合わん」

「深層を攻めるならペース配分は必須よ。いい機会だし戦わず済ませる術も覚えなさい」

「……分かってるさ。優先順位を見失うほど馬鹿じゃねェ」


 消耗した状態で有利に立ち回れるほど、八尺様はヌルい相手ではない。

 況してや今、あの女怪は手負い。次に対面すれば獣同然の凶暴さを見せる筈。


「五十階層までに飲める増血薬は精々あと一本。一階層で重ねていい戦闘の回数は、順当に考えて一回か二回だな……」

「あ、なんか居る。白黒のピエロみたいな奴」


 マジか。そいつもクリーピーパスタだわ。


 路地裏に隠れ、通り過ぎるのを待つ。

 狭いなオイ。リゼ、もう少し俺の方に詰めろ。






「ところでクリーピーパスタって何? カルボナーラの親戚?」


 んなワケあるか。

 言われてみれば確かに、そんな感じの語感だが。


「海外ネット発祥の都市伝説」


 三十八階層で出くわしたスレンダーマンも、それの一種だよ。





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