102






 スキルの中には、発動時に能力の段階引き上げが可能なタイプのものが稀にある。

 そういう効果を『深化』と呼び、段階は『深度』として分けられる。


 俺の『双血』はまさしくそれにあたり、深度を上げれば擦り減る血の量が大きく増す代わり、強化倍率も跳ね上がる。

 凌がれれば敗北必至。実戦でおいそれと使うのは無駄にリスクがデカ過ぎる上、そもそも今日に至るまで使う必要性すら感じなかったため、遮二無二使わされるような敵の出現を待ち望んでたワケだが。


「まさか、こんな披露目になるとはな」


 世界が遅い。一秒が十秒ほどに感じる。


 踏み込む。石畳を割り砕いて勢いが死なぬよう、加減と体重移動に気を遣いながら。

 三十歩分は距離が開いていたコトリバコを眼前に据え、水銀刀を抜き、上段に構える。


 左手は使わない。この状態で両手フルスイングなど、剣が保たん。


 攻撃準備を終えたと同時、ようやっと始まる迎撃。

 呪詛を放出すべく、厳重に封じられた蓋を開いて行くコトリバコ。


 が。


「遅せぇ。何もかも」


 柄が軋むほど握り締め――振り下ろす。


「発破ァァァァアアアアアアアアッッ!!」


 切っ尖の動きに数拍遅れて鳴り響く風切り音。

 風圧と衝撃で周囲の全てが吹き飛ぶ。直撃を受けたコトリバコに至っては、破片も残さず爆散した。


 手中でガタガタと震える、刀身が激しく波打つ水銀刀。

 呑み込みきれなかった、跳ね返しきれなかった運動エネルギーが、流動する特殊金属の内側で暴れ狂っている証左。


「…………ふう」


 ひとつ息を吐き『豪血』解除。

 立ち眩みを起こしフラつきかけるも、奥歯を噛み締めて耐える。


「ま、こんなもんだ。どうよ? これなら、難度六のダンジョンボスとだろうと張り合え――」






〈ぽぽ〉

〈ぽぽぽぽぽぽぽ〉

〈ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ〉





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る