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 三十八階層と三十九階層を突破し、四十階層への入り口である階段前に到着。

 そこには既に七人ほど、探索者シーカー達が屯していた。


 その中には。


「よぉ、博多の女」

「誰が博多ん女ばい――退廃に満ちた常世で、呼称など瑣末なこと……」

「博多弁以外だと厨二みたいな言葉遣いしか出来ないのね」


 しかし、なんだってコイツ等は進みもせず、こんなところで集まってるんだ?


「二人か……これで九人。もう少し頭数あった方がいいな」

「スね。ったく、カタストロフが起きてるってのに、なんで律儀に持ち場を守ってるんだか」


 首を捻っていたところ、そんな会話が耳に入り、連中の思惑を理解する。

 四十階層フロアボスをローリスクで倒すべく、人数を揃えてるワケか。


「ちょいと失礼。具体的に、あと何人欲しいんだ?」

「前衛と後衛が二人ずつくらいだな。差し支えなければ、君達の戦闘スタイルとポジションを教えて欲しい」


 俺は『双血』を活かして壁役タンク攻撃役ダメージディーラーもこなせる最前衛。

 リゼは『飛斬』で遠距離を制しつつ『呪胎告知』で広範囲を同時攻撃出来る上に『幽体化アストラル』と『消穢』で物理攻撃も毒も呪いも効かず、オマケに『ナスカの絵描き』で全方位に意識を配れる。しかも最近まで近接メインだったから苦手な距離は無い。まさしくオールラウンダー。


「改めて考えると、お前って結構すげーよな」

「はぁ? なんなのいきなり」


 ともあれ、説明するのが面倒臭い。

 それに、ここでダラダラ待つのも却下だ。折角、休憩を入れてアゲた気力が萎える。


「はい通りまーす、通りまーす、カザフスタン大統領が通りまーす」

「いつからカザフスタン大統領になったのよ」

「こちら、カザフスタン共和国初の女性大統領でーす」

「しかも私だし」


 あと、ちょうど良かった。御誂え向きだ。

 リゼの八尺様に対する弱気を、多少なり払拭出来るやも知れん。






 長い階段を下りる俺とリゼ。

 そして博多の女。


「アンタも着いて来るのか?」

「『箱』を前に寡勢で挑みし選択……果たして蛮勇か英断か……」


 要は俺が何するか興味あるって話ね。


「……ここんボスは本当に危なかばい。二人じゃ厳しか」


 いや、単に此方を心配してのお節介か。

 まあ気持ちは受け取っておく。


 ただし、ひとつだけ訂正を入れるなら。


「二人じゃねぇ。俺一人だ」






 階段の先に待っていたのは、古びて朽ちた神社の跡。

 それと――崩れた賽銭箱の上で浮かぶ、立体パズルのような、寄木細工の小さな箱。


「居たな。四十階層フロアボス『コトリバコ』」


 凄惨かつ非人道的極まる方法で作られたという呪いの箱。

 凶悪極まる呪詛を撒き散らし、近付く者を無差別に殺めんとするカースド・アイテム。

 今の俺とリゼが総がかりで挑み、ようやく倒すに能う、遠征の最後を飾るに相応しい、相応しかった難敵。


 ……より正しくは『深化を使っていない俺』とリゼ、か。

 持続時間が短過ぎるもんで使い所が難しく、下手に切れば却って不利を招くカードだが。


「リゼ、見てろ。そして安心しろ」


 一分以内にケリをつけられる勝負なら、恐らく深層でも通用する。


「豪血――」


 動脈に奔る赤光。

 からの。


「――『深度・弐』――」





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