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〈ワタシ、キレイ?〉


 すげぇなカタストロフ。よもや二階層にスラッシャーが出るとは。

 もしビギナーが遭遇したら、ほぼ確殺だ。


「え、え? いや、あー、その……まあまあ、でしょうか?」


〈……ハッキリシナイ、オトコ、ネェッ!〉


「ぎゃあああああああっ!? く、口、口が、裂けぇっ!?」


 あの探索者シーカー、さては軍艦島初めてだな。


 スラッシャーのことを知らなかったのか、涙目で逃げ回る三十路ほどの男。

 脚力を上げるスキルでも持ってるらしく不自然に足は速いが、追い付かれそうだ。

 なんとなく横を並走してみる。


「落ち着けよ。そいつビビると強くなるんだぜ?」

「へぇ!? いやいやいやいや無理無理無理無理、怖いもんは怖いんだって!」


 口が裂けてるだけじゃねぇか。よく見りゃ愛嬌のある顔だぞ。


「助けてー!」


 悲鳴じみた救援要請。

 他人の戦闘に横槍入れるのは趣味じゃねーんだけどな。


 まあいい。実を言うと強化された都市伝説系クリーチャーとは戦ってみたかった。

 助太刀ついで、お手並み拝見させて貰おう。


「豪血」






 結構強くなってたなスラッシャー。五割増しくらいか。

 とは言え、流石に俺を苦戦させるほどの変化は無かったが。


「往け……騒乱の猟犬達……」


「ん?」


 ふと。ダンジョンで聴くとは思わなかったが耳朶を刺す。

 角の先を覗いてみれば、ちょうど三体のクリーチャーが頭を弾かれる場面だった。


「虚しい……生も死も同じこと……」


 茫と佇む、右目に黒百合の眼帯を宛てがった女。

 その手には青薔薇の彫刻が施された、二丁の大口径リボルバー拳銃。


「お、マジに銃だ」


 クリーチャー相手に有効な弾はダンジョン産の素材、つまりドロップ品でしか作れなくて馬鹿みたいに高いから、使う奴あんまり居ないんだよな。

 国がバックに付いてる沈黙部隊とかは湯水の如く撃ちまくるが。公開された動画で見る限り、連中の戦闘は物量任せでつまらん。


「硝煙を纏う赤き花……全ては無価値……」


 ところで。


「あの女、何ブツブツ言いながら撃ってんだ?」

「さあ」


 しかもゴブリンまで見境無く撃ち殺してるし。

 三十、いや下手すれば四十番台階層くらいまでは弾代の方が高くつくだろうに。


 と、思っていたら。


「『リロードツール』……魂なき石屑に命を……」


 迷宮エリア全体を区切る石の壁。

 それに触れた指先が淡く光を帯びると、瞬く間、数発の弾丸が彼女の手中に。


「弾を作るスキルか。面白いもん持ってんな」

「……面白い……?」


 声をかけると、銃の女は無感動に俺を見る。


「遊興に意味は非ず……世の全てに意味は非ず……」


 なんだコイツ。

 やっぱ九州の探索者シーカーって変なの多いな。


「万象は儚く散り行くもの……なんば言おうとも――何を言おうとも、所詮……」

「今、訛ったな」

「訛ったわね」


 銃の女じゃなくて博多の女か。


「……訛っとらん。たいがいなこと言わんで」

「普通に訛ってるだろ」

「ね」


 俯く博多の女。

 直後に干潟エリアで見たクリーチャーが何体か現れ、それを無言で射殺すると。


「……………………しぇからしかっ!」


 捨て台詞を残し、顔を真っ赤にして逃げてしまった。


「……方言コンプレックスだったのか。悪いことしちまったかな」


 女が使う分には可愛らしいから好きなんだがな。博多弁。





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