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 探索者支援協会端島支部は、軍艦島でのカタストロフ発生を協会本部に報告。

 併せて沈黙部隊の出動を要請し、早急な事態の収拾を図る。


 けれど。生憎と時期が悪かった。


 少し前に報じられていた通り、沈黙部隊はリ・アトランティス――難度十ダンジョンへの遠征を控えた身。

 万全の状態でも命の保証が一切無い死地へと赴く前に、余計な消耗などさせられるワケが無い。


 となれば、どうするのか。


「ま、こうするよな」

「眠いわ」


 軍艦島での六度目のアタックを終えた四日後。

 奇しくも、この遠征最後のアタックを予定していた日の早朝。俺とリゼは数百人の探索者シーカーが集まった支援協会のロビーに紛れていた。






 俺達が八尺様に遭遇した翌日以降、各階層で爆発的にイレギュラーエンカウントが確認された。


 フェリパ・フェレス曰く、ステージⅠからステージⅡへの進行期間は十日ほど。

 最早、一刻の猶予も無いと判断した支援協会上層部は、九州を活動地域とする全探索者シーカーに救援依頼を発信。依頼料に加え、討伐ポイントに応じた追加報酬を出すという内容で頭数を集めた。


「参加条件は最深到達階層が二十番台以降であること、ね。九州全部ひっくり返しても、こんだけしか居ねぇのか?」


 ざっと五百人。

 発布が二日前ゆえ、急な話で人が揃わなかったのだろうが、それにしたって少ない。


「日本の現スロット持ちは約九万人、探索者シーカーは六万人強。九州の人口は日本の一割くらいだから、単純計算で探索者シーカーも六千人。その内の六割はビギナーか十番台階層で活動する下位。そいつらを差っ引いた残りが二千四百人……応じたのは、二割ちょいか」

「そんなもんでしょ」


 まあ明後日に第二陣、四日後に第三陣が出る段取り。そっちも足せば半分は集まるか。

 何にせよカタストロフ発生中のダンジョンに踏み入るなど、滅多に出来る体験じゃない。


 ――ステキなパーティーの始まりだ。






「ところでリゼ」

「なに?」


 大まかな流れが説明され、いざ出発と相成った頃。

 各々の装備を身に纏い、フェリーに乗り込む人の流れをウズウズと見据えながら、眠そうな顔でガムを噛むリゼに話しかける。

 立ってるのしんどいからって俺に寄りかかるな。


「勝負の最終日に、とんだ騒ぎが起きちまったワケだが……これも込みってことでいいんだよなぁ?」

「勿論」


 現在俺達の討伐ポイントは、ほぼ横並び。

 けれども流れは俺に来ていた。順当に行けば、きっと勝っていた。


 そこに、この想像もしなかったアクシデント。

 果たして吉と出るか、凶と出るか。


「二転三転。とことん楽しませてくれやがる」

「そ」


 こんな時でも平常運転、無愛想な奴。

 たまにはニッコリ笑ってみたらどうなんだ。





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