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 ――異変が起きたのは、鼻歌交じりに二十五階層を歩いている時だった。


「あぁぁああああぁああううぅぅああ」


 路地の影よりフラフラと現れた人影。

 一瞬クリーチャーかと身構えるも、すぐ同業者だと気付いて刃を収める。

 水銀刀に刃は無いけど。


「酔っ払いか? 見た感じ三次会帰りくらいだな」

「呪われてるわね」


 自身が一級品の呪詛を扱う上に『幽体化アストラル』なんてスキルも持ち合わせてるからか、リゼはその手の気配に敏感だ。

 逆に俺は『豪血』の感覚強化が素の能力値も鍛えているため五感こそ優れるが、霊感の類は殆ど働かない。


「ううううぅぅぅぅ」


 やがて街灯の下で蹲り、寒くもないのに身体を丸めて震え始める探索者シーカー

 駆け寄る。軽装の女性、俺達と同年代。この年頃……と言うかデビュー数年で二十番台階層をソロアタック出来る奴は滅多に居ないし、年齢を差し引いても装備の質や状態を見るに、そこまでの手練れとは思えない。

 呪われて錯乱し、パーティから逸れてしまったのだろう。


 しかし。


「……何にやられたんだ?」


 俺達が夜街エリアで遭遇したクリーチャーの中に、人をする輩など居なかった。

 近い存在を挙げるなら、呪いの着信音を操るボイスだが……どうもしっくり来ない。


 そんな風に考え込んでいると。


「……れ、た……はいれた、はいれた、はいれたはいれたはいれた……」

「あァ?」


 入れた? 今、そう言ったか?

 もしや……だが、いや……まさか。


「魂に何か寄生してる。ちょっと乱暴になるけど引き剥がすわ」


 俺の思案が纏まる前に『幽体化アストラル』を発動させたリゼが、腕を女性探索者シーカーの胸に突き入れる。

 次いで、暴れる何かを――強引に剥がし取った。


〈ギャイイィィィィアアアアァァッッ!?〉


 肉の身体を一切傷付けず行われた摘出手術により露わとなる呪いの根源。

 まともな生物の形をしていない、そして俺が思い描いていた通りのクリーチャー。


〈……テン……ソウ……メ、ツ……〉


 投げ捨てられたアスファルトの上で震えながらの、弱々しい断末魔。

 寄生から剥がされたダメージに加え『消穢』の影響もあるのか、トドメを刺すにも及ばず、そいつは魔石を残し消え去った。


「……今の奴って」

「ああ」


 直接、姿を見たことでリゼも気付いたのか、眉間に険が寄る。


 アレは『ヤマノケ』。遭遇した女性に取り憑き、下手すれば生涯に亘って正気を失わせ続けるクリーチャー。

 とは言え、呪毒を消し去る聖水や魂に干渉する心霊手術などの技術が発達した現代なら、十分に対策を施せる相手。


 問題は、だ。


「ありゃ現れるクリーチャーだろ」


 同じ廃村エリアなら兎も角、二十番台階層に居るワケがないんだよな。





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