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 空の頂点に太陽が固定され、上からの視界を妨げる遮蔽物も殆ど無い廃村エリアは、当然『ナスカの絵描き』があるリゼに有利な環境。

 加えて、先程の広範囲マルチロックオン攻撃。精々、石を投げる程度しか遠距離戦の手段を持たない俺とは効率が違い過ぎる。


「まずいな、これ。考えてたより遥かに不利じゃね?」


 まさか、あんな、此方の想定を根底から覆す新技があったとは。

 一層に締めてかからんと、追い付け追い越せどころか独走を許しかねんぞ。


「――ハハッハァ! なんってイイ女だよ、最高に楽しませてくれやがる! 無愛想はいただけねぇが、デートの相手にゃ持って来いだな!」


 勝負事は旗色が悪いほど燃える。

 こうでなくては、探索者シーカーとなった意味が無い。






 さりとて、このままでは敗色濃厚。

 なので少々ばかり、方針を変えることにした。


 正味の話、このエリアで俺がリゼ以上にクリーチャーを斃すのは難しい。

 然らば狙うは量よりも質。ポイントが高い奴を集中的に狙う。


「軍艦島三十一階層、出現クリーチャーを討伐ポイント順に表示」


 空間投影ディスプレイにズラッと並ぶ、昔のホラー映画で何度も見た顔触れの名。

 一時間足らずで階層の端と端を行き来可能な程度の広さゆえポップ数は多くないが……逆に言えば高ポイントの個体を俺が押さえてしまえば、リゼに数を稼がれても上回れる。


「問題は、俺には探知系のスキルが無いって話だが。いくら『豪血』で五感を強化しようと限度があるぞ」


 尤も、そこは知識量が幸いした。

 討伐ポイントが高い奴等の何体かは、大体の居場所に見当がつく。


 腕輪型端末の表面に浮かぶ残り時間を確認。

 少し急ごう。


「豪血」






 三十一階層を降りてすぐの田園を抜けた先、全く手入れされていない樹木が絡んだ山の中。

 居るならここだと判断し、暫し練り歩くと、首尾良く探し物と思しき目印が。


「お邪魔しまーす」


 薄汚れた紙垂付きの縄と鉄条網が巻かれた柵。

 三メートル近い高さのそれを飛び越え、更に少し進み……見付けた。


 古ぼけた六角形の石台に乗せられた、小さな祠。

 中心に置いてある賽銭箱のような、よく見ると全く違う何か。

 造りの杜撰さに反して神像の如く祀られている、くの字型の棒切れを幾つか合わせて組んだ掌大のオブジェ。


 まあ、細かいことはどうでもいい。


「サーチ&デストロイ」


 水銀刀を振り下ろし、祠を粉々にブッ壊した。

 意味不明なオブジェは、特に念入りに。


 すると。あちこちから、けたたましく鈴の音が鳴り響き、大きな気配が凄まじい速さで此方に向かって来る。


〈フウゥゥゥゥ……!!〉


 やがて現れたのは、六本腕の上半身と終わりが見えないほど長い大蛇の下半身を持った、表情こそ全くの無にも拘らず、此方に注ぐ視線は激しい怒りを湛えた蛇女ラミア

 零落した神だの、忘れられた大昔の怪物だの、知り合いの知り合いが肝試しで遭遇して呪われただの、マイナーな上に詳細部分のバリエーションが多過ぎて俺も正確には把握しちゃいない都市伝説だが、夜街エリアで戦った輩共とは一線を画す危険性を秘めた逸話と、こう呼ばれていることは知っている。


「おはようさん『姦姦蛇螺かんかんだら』よ。ちょいと目覚ましの挨拶が丁寧になり過ぎちまったかなぁ?」


〈フシイィィィイ……!!〉


 ……ん?


〈ルウウ……!!〉

〈カロロロロロ……!!〉


「いや、多くね?」


 なんで四体も居るんだよ。

 さては相当ほっぽらかされて、ポップしまくってたな。

 なんつう風情のない光景だ。





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