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 軍艦島アタック四度目の本日。進出予定は三十階層と三十一階層。

 つまり実質、廃村エリアでの慣らしとクリーチャーのレベルを肌で知るための箸休め的なスケジュール。


 ……などと考えてるだろうリゼを出し抜く絶好のチャンスである。

 一気にスコア差を詰め、あわよくば追い抜いてやるぜ。


「っし見付けた最初の一匹!」


 雑草ばかり生い茂る水田跡の向こうで、くねくねと蠢く白い何か。

 名もそのまま『クネクネ』。正体を知れば正気を失うという、クトゥルフ神話の怪物をスケールダウンさせたみたいな都市伝説系クリーチャー。


 ちなみにクトゥルフの連中ならアメリカ東北部、ロードアイランド州の難度十ダンジョン『ラヴクラフトの脳髄』深層で出現が確認されてる。

 ここもリ・アトランティスと同じく、数少ない未踏破ダンジョンだ。行ってみてぇ。


「正気度チェックがナンボのもんだゴラァ! こちとらとっくの昔に脳みそ焦げ付いてんだよぉ!」

「ちゃんと自覚あったのね。尚更タチ悪いけど」


 リゼが後ろで何か言った気がするも、止まらず緩めず駆け抜ける。

 近付くに連れて輪郭や形状が確かなものとなり、少しずつ明らかとなる全容。

 さあ正体見せ――


「『呪胎告知』……『ヒトツキ流斬ナガレ』」


 ――俺の脇を抜き去る、狂った笑い声に似た音色を孕んだ斬撃。

 黒とも赤ともつかないその色は、深々と地を抉る一本線を刻んで飛び、未だ正確な形貌すら分かりかねていたクネクネを両断した。


 亡骸が影も残さず消えた後、遅ればせ水銀刀の届く間合いに捉え、立ち止まる。

 落ちていた魔石のサイズは八千円級。あのイライザと同等。


 振り返る。此方に歩み寄りながら、リゼがチョコバーを食べていた。

 考える。今し方の光景について。


「……もしかして……『呪胎告知』と『飛斬』の合わせ技って、細かい威力調整出来ちゃう系?」

「出来ちゃう系。今のは出力一割で撃ったわ。当然、減る体重も一割ね」


 一度のアタックで三度か四度も使えれば御の字な燃費の悪さこそ『呪胎告知』最大の難点だった。

 威力調整による負荷軽減が可能となれば、使い勝手の良さは爆発的に増す。


「道理で前半戦のスコアが悉く俺の想定を上回ったワケだ……」

「ついでに、このエリアなら、もうひとつ面白いことが出来ちゃう系」


 そう言葉を続けると、リゼは再度大鎌を振りかぶった。

 やけに上狙いの構えで。


「『幽体化アストラル』……『呪胎告知』……『フタツキ流斬ナガレ』……!!」


 何故か『幽体化アストラル』を発動させた状態で、やはり上に放たれた、狂い笑う斬撃。

 と。


「……『ナスカの絵描き』……見付けた、射程距離内に七体……!」


 斬撃が空中で、七つの軌跡と化す。

 それぞれ流星の如く落ち、直後に幾つかの断末魔じみた、明らかに人間のものではない悲鳴が其処彼処から響き渡る。


「ふぅ、解除……どう? 面白かった?」

「……何したのか、さっぱり分からん」


 曰く。呪詛を圧し固めた飛ぶ斬撃に、幽体と化したリゼの意思を操り、上空の俯瞰視点で狙いを定め、纏めて攻撃したのだと。

 普通は呪いと精神を繋ごうものなら精神汚染を受けるが、リゼの場合は『消穢』がある。怨嗟の汚濁など微塵も染み込まない。


 即ち『呪胎告知』『消穢』『幽体化アストラル』『ナスカの絵描き』『飛斬』。この五つの、一見して何のシナジーも感じられないスキル全てを、巧みに組み合わせたのだ。


「出力五割も篭めせば、無駄な破壊に費やしてたエネルギーを効率的に使える分、普通に『呪胎告知』を使うのと同じくらい倒せるかもね」


 駆動の最適化でレベルを上げたと調子に乗ったが、手札を隠していたのはリゼの方だったか。

 元々強かったが、習得者とガッチリ噛み合うスキルひとつで、更にこうも力量が跳ね上がるとは。

 つかマジ『飛斬』の利便性、高過ぎ。シンプルなほど応用の幅が利く理屈か。





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