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「なんだこれ」
アタックを終えた後のインターバルは、キッチリ休息と観光に勤しんでる俺達。
飯を済ませて部屋に戻ると、テーブルに積まれた土産物の山。
「こんなに買って、どーすんだよ」
「配るの」
行儀悪くソファの背もたれに足を乗せて寝転がったリゼが短く返す。
パーカーの裾が捲れて見えそうだぞ。隠せ。
……にしても、この量を配る?
軽く二十はある。リゼの性格上、大学や近所での付き合いが良好とは考え難いが。
「めんどくさいけど、ウチ親戚との繋がり強いし。今年は盆の集まり拒否ったし」
勘当された俺とは無縁の話だな。
「お前に、そんな気遣いが出来たとは驚きだ」
「仕方ないの。
……成程。リゼのやたらグレードが高い装備に関しちゃ確かに不思議だった。
身に付けるだけで筋力を増す全身拘束具状態のベルトもそうだが、ガンツ社特許のスライムスーツとか一番安いモデルでも五千万はする。そして大鎌に至っては希少素材を用いた完全オーダーメイド。
ひとつ取り上げても
ああ、でも前に言ってたか。装備は最初から整ってたと。
思い出した、リャンメンウルフと初めて対面する直前の会話だ。あの時は二十階層フロアボスとの戦闘にばかり意識が向いてて気にも留めてなかった。
となると、つまり。
「お前、お嬢様だったのか」
「ひかえおろー」
なんつうダラけたザマだ。
指摘しといてアレだが、ぽくはないな。全く。
「……まあいい。だが、それなら何故
俺にとっては天職なれど、常に死のリスクが付き纏う、世間的には相当ヤクザな商売だ。
子供の時分に憧れる奴は多いが、ぶっちゃけ引く手数多の職業とは呼べない。
金持ち連中が高い金を払ってまでスロットの移植をしたがる理由も、大半は不老や美容のスキルを求めての行動だし。
スライムスーツをポンと買い与えられるレベルの家なら金に困ってるワケも無い。
そいつを手切れ金代わり、みすみす娘を死地に放り込むほど冷め切った家族関係なら、リゼが土産などの気を遣うとは思えない。
「よく親御さんが許したな」
「猛反対されたわ。でも私、自由に生きたかったの」
聞けばリゼの実家は歴史ある旧家で、幼少より厳しい躾を受けて育ったのだと。
礼儀作法、習い事、家庭教師。人格形成に差し障るからと、高校入学までは付き合う友人すら両親の思惑に左右されたらしい。
「確かに息が詰まりそうだ」
「本人達は後生大事にしてるつもりでも、あんなのガラスケースに飾られてるみたいなものよ。寝っ転がってポテチも食べられない窮屈な家」
一般家庭でも年頃の娘が自堕落に菓子を貪っていれば説教くらいするぞ。
「ちなみに、どうやって説得した?」
「無茶苦茶な要求突き付けた後に、大学を卒業するまでって本命の条件を呑ませたの」
典型的なドア・イン・ザ・フェイス。
英才教育で余計な悪知恵を身に付けたか。
「……ん? じゃあ、お前あと二年足らずで
「まさか。適当な理屈捏ねて丸め込むか、いっそ卒業したら行方眩ます予定よ」
良かれと思った教育方針が、望んだ結果を齎すとは限らないっつう一例。
…………。
まあ、なんだ。
「お前も案外、苦労してたんだな」
「当たり前でしょ。苦労の無い人生なんて、あると思ってんの?」
返す言葉もねぇ。
「そういうことで、試験の時はホント助かったわ。もし留年なんかしたら大学も
「しろよ勉強。俺ですら試験期間入る一週間前にはダンジョンアタック控えたんだぞ」
曰く今まで勉強を強制され続けた反動か、講義を受ける時は兎も角、自主的に机に向かうと五分で頭痛を催すとの談。
コイツの親御さん、完全に育て方をミスってやがる。
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