82
軍艦島三十階層。
スポーツ公園を思わせる構造の、夜街エリア最後となるそこで俺達を待ち受けていたのは、なんとも奇妙なクリーチャーだった。
「気色悪」
リゼが零した通り、生理的な厭悪を掻き立てられる見てくれ。
腕も脚も無い、男か女かも分からん肉袋のような身体のあちこちに別人の手足を幾つも縫い付け、頭部に至っては牛のそれと挿げ替えられた悪趣味なバケモノ。
コイツも怪異・都市伝説系の一種か。
外見から察するに、だ。
「牛の首か? 聞けば誰もが恐怖し発狂死するなんて尾鰭だけが集まって原形を得た、ありもしない怪談噺の代名詞」
「ちょっと待って……ビンゴ。フロアボス『
マジか。名付けた奴は捻りが無いな。
……いや。或いは寧ろ、そう名付けたからこそ、こんな姿なのかも知れん。
怪異・都市伝説系クリーチャーは人の恐怖心で力を増し、大衆のイメージで形や性質を変える特異な分類だと言われてる。
諸説あるため、実際のところはどうか分からんが。
〈ぶもおおおおおおおおおおおおおおおおっ〉
低い、まるで助けを求めるような鳴き声。
尤も奴が次に起こした行動は、そんな悲壮感とは無縁の攻撃であったが。
「お」
縫い付けられた腕の一本が巨大化。のたうつ蛇の如く俺達に迫る。
ラバーゴムに似た表面質感。触る気が起きなかったため、リゼと左右に分かれて躱す。
すると腕が半ばから二つに裂け、同時に襲って来た。
「二兎狙いとは欲深い野郎だ――豪血」
水銀刀で手の甲を打ち地面に叩き付けるも、見た目通りの感触から効果は薄そうだ。
一方リゼはナイフによる『飛斬』で腱を斬り刻み、難を逃れていた。
「ピン留めしちまおう」
近くに立っていた車両進入禁止の標識を引き抜く。
深々とアスファルトに突き刺してやれば、身動きを封じられて暴れる巨大ミミズの出来上がり。
「飛ぶ斬撃ってホント便利ね。キモい奴に近寄らなくて済むもの」
嫌悪を隠そうともせず、リゼが四度大鎌を振るう。
飛来する太刀筋は牛頸の身体に吸い込まれ、出鱈目な手足ごと斬り裂く……が、傷口からボコボコと肉の泡が湧き、瞬く間に元通りとなった。
「高速再生持ち! 初めて見るな、面白れぇ!」
「めんど」
よく見ようと『豪血』をかけたまま懐に踏み込めば、伸びたものとは別の腕が五指を鋭利な刀剣に変え、俺を払い除けるべく横薙ぎに振るった。
水銀刀で迎え撃ち、一刀にて五本全てを砕き折る。
直後。
「どうなってんだ、そりゃ」
突如、此方に背を向けたかと思えば、後ろ腰の辺りにぶら下がる、あからさまに不摂生な男の太い脚。
その脚の激しい痙攣に次ぎ、毛穴という毛穴から巨大なムカデが無数に飛び出し、俺を襲った。
「鉄血」
硬化させた身体へと十重二十重に突き立つ顎肢。
しかし生憎、虫けら如きが貫ける防御力ではない。
一旦、間合いを取りつつ全身に絡み付く鬱陶しい蟲群を引き剥がし、握り潰す。
……コイツの特性が分かってきた。
「実体の無い、尾鰭だけの都市伝説。本体は無能だが、縫い付けられた手足ひとつひとつに別々の能力が備わってるのか」
後付けの手足は九本。
残り六種、どんなチカラを持っているんだ。
「見せろ。全部曝け出せ」
「冗談。さっさと倒すわよ、気持ち悪い」
どうやらリゼは牛頸が気に召さない様子。
言いたいことは分かる。俺だって、これと友達にはなりたくないし。
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