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何故、何故だ。どうなってる。
「ギャフン」
「それホントに言う奴、初めて見た」
満を持した三度目のアタック。この二十七階層で俺は、まさに三度目の正直を体現するつもりだった。
なのに、なのに。
「なんで俺の方が負けてるんだ」
ダンジョン内にて砕くことで三十分間その場所にクリーチャーを集める、
効果は絶大であった。笑えるくらい押し寄せた都市伝説のバケモノ共を屠り、勝ちを確信し、集合地点の二十八階層前に凱旋した。
しかし結果は、僅差も僅差だが敗北。
一体どうやって討伐数を稼いでやがるんだ、この女。
――と。
「ま、アンタの考えることくらい私も思い付くって話よ」
ガムを膨らませたリゼが手の中で転がす、見覚えある錠剤。
て言うか、さっき俺が使ったのと同じもの。
つまり。
「てめぇかよ買った奴って!」
いかん。このままではいかん。完全に後手後手だ。
虎の子の貯金を崩したことといい、リゼの奴、完全に俺を仕留めに来てやがる。
「勝敗は全部ひっくるめた累計で決まるとは言え、三連敗はマズい。なんとしても避けたい」
三十番台階層に踏み進めば、討伐ポイントのアベレージも上がる。
加えて怪異・都市伝説系のクリーチャーは、敵対者の恐怖心を糧に強化されるのが概ね共通の特徴。欠片もビビらない俺相手じゃバフを得られず力も半減。赤い糸で結ばれたみたいな相性の良さ。
……が。十の位がひとつ上がれば、遭遇するクリーチャーの地力も明確に増す。
一度のアタックで倒せる頭数は、確実に目減りする。
第一ここのクリーチャー共に恐怖しないのはリゼも同じこと。ホラー及びスプラッタ関連の耐性が高過ぎる。可愛げの無い。
加えて軍艦島三十番台階層のエリアネームを鑑みるに、後半戦は明らかにアイツが有利な地形と来た。
「今日で巻き返す。逆境でこそ男は真価が問われるのだ」
残り二個となったタブレットは、まだ使わない。
リゼがあと幾つコレを持ってるかは判断しかねるが、二十七階層で既に二度も『呪胎告知』を撃ったことは把握済み。
残りのリソースを鑑みるに今回のアタックではもう使わない、いや使えない筈。
「一個は二十九階層。最後の一個はラストスパート用」
となれば、この二十八階層は足頼み。
「豪血」
近場の家に押し入り、勘の赴くまま適当な部屋の扉を蹴り開ける。
強化された五感が示す反応を頼りにベッド下を覗き込めば――斧を持った醜悪な顔つきの男が潜んでいた。
「『アンダーベッド』! オラ出て来い、戦え!」
嫌がるのも構わず腕力任せに引き摺り出し、水銀刀で叩きのめす。
隠密性こそ高いものの正面戦闘向きではない姑息な陰湿野郎は、四発で動かなくなる。
──間髪容れず、室内に据えられたテレビの中へと飛び込んだ。
「隠れても無駄だ! 大人しく討伐ポイント寄越せ! 置いてけ!」
本来なら入れる筈が無い、存在する筈が無いその空間は『画面奥の女怪』が作り出したテリトリー。
潜り抜けた先は人里離れた山中と思しき場所。
そして、そこにポツンと在る古井戸。
奇妙なノイズ音が鼓膜を引っ掻く。
併せて崩れかけた井戸の縁を掴み、中から異常に髪の長いボロボロの女が現れた。
〈オマエ、モ、ワタシ、ト、オナジメ、ニ――〉
「喧しいわ、こちとらリアルタイムアタック中なんだァよ! くっだらねぇ会話イベントとかスキップだスキップ!」
髪で隠れた、よく見れば素材は良さそうな顔面に膝蹴りを見舞い、更に水銀刀で横っ面へと一撃二撃。
再び井戸の底に落ちた際のダメージがトドメとなり斃れたのか、瞬きの後、俺は元の部屋へと戻っていた。
「よし魔石回収……こいつはドロップ品か?」
四千円級の魔石二つに加え、薄汚れたVHS。
資源的な利用価値は全く無い、所謂トロフィー系ドロップ。
一部のオカルトマニアが挙って欲しがるアイテム系列の一種。
しかし。
「生きてる再生機器どこにあんだよ。こんな半世紀も前に生産終了した化石」
少なくとも、近所のリサイクルショップやフリマアプリじゃ見たことねぇ。
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