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 リゼが寝静まった後、こっそりホテルを抜け出し支援協会へ。

 昼も夜も無いダンジョンを攻略する探索者シーカー達のサポート組織。必然、此方も二十四時間営業だ。


「太平洋の『リ・アトランティス』でカタストロフ反応増大……近々、日本含む世界各国より戦力派遣、ね」


 受付で少し待ち時間があったので、なんとはなし新聞に手を伸ばすと興味深い記事が。


 ――ダンジョンを放置し続けると、過剰なエネルギーの蓄積によって暴走したゲートが周辺一帯の空間を呑み込み始め、最終的には直径数百キロほど地球をしまうとか。

 俗に『カタストロフ』と呼ばれる、事象革命の黎明期に於いて散見された現象。幸い、何れも初期段階で食い止められたそうだが。


 各ダンジョンに出現するクリーチャーを倒し、エネルギーを蓄えた魔石を回収すれば、カタストロフ発生は未然に防げる。

 探索者シーカーが優遇される理由のひとつだ。或いは最たるものかも知れない。


「リ・アトランティス……今や数える程度になったダンジョン……しかも難度十。是非とも行ってみてぇなオイ」


 とは言え、全世界で九つのみ存在する難度十のダンジョンへと踏み入る権限を持つのは、世界中で三百万人近い探索者シーカーの中でもDランキング入りした上位千人だけ。

 今の俺には、まだまだ手が届かない話だ。






「クリーチャーを誘き寄せるアイテム、ですか」

「ええ。この支部に、なんか在庫置いてません?」


 少々お時間頂きます、と告げて空間投影キーボードを叩き始める窓口の係員。

 程なく検索結果が出たのか、再度此方に向き直った。


「お待たせ致しました。先日、別の方が幾つか購入されていますので数は少ないですが」


 マジか。この手のアイテムは扱いが難しいため大規模な支部でも置いてるか微妙だったが、聞いてみるもんだ。駄目元精神万歳。


「在庫数と値段は?」

「三つほど。ひとつにつき四万円となります」


 たっかいなオイ。使い捨ての消耗品が五桁とは驚き。

 でも買う買う、普通に買っちゃう。こういうアイテムに金かけてこそデキる探索者シーカーだし。月彦くん糸目つけないよ。


「使用方法につきましては、同封された説明書の方に記載が御座いますので」

「どうも」


 受け取った小さな包みを圧縮鞄に突っ込み、ほくそ笑む。


 リゼめ、快進撃はここまでだ。次こそ鼻を明かし、ギャフンと言わせてくれるわ。

 実際に言う奴、見たこと無いがな。ギャフン。





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