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「なんてこった」


 三日間に及ぶ万全のリフレッシュを挟んだ上で、二度目の軍艦島アタックを終えた俺達。

 結果は……またしても俺の敗北。しかも前回より更に差は広がってる。


「クソッ! 二十五階層で『ひとりかくれんぼ』に引っかかったのがロスになったか!」

「ああ、アレ。私も出くわしたけど……わざわざ付き合ったの? アンタなら正規の手順踏まなくてもフツーに倒せたでしょ」


 初戦で横紙破りは野暮かと思って。

 次からは容赦無く踏み潰す。


「藤堂様、魔石の査定が終了致しました。全部で四十八万六千円になります」

「ついでにガッデム」


 軍艦島二十番台階層の平均魔石買取額は、四千円から五千円ほど。

 各階層で一時間のうち三十から五十はクリーチャーを仕留めてるもんで、否が応にも稼ぎは増える。


「嘘だろ、二度の日帰りアタックで既に百万円。しかも探索者シーカーは各種税金が殆どかからんから、実質の価格は数字以上」


 所得税とか無いんだよ、一円も。知る限り消費税くらいだ、普通に払ってるの。

 あと銀行の融資なんかも、新人探索者シーカーでさえ一千万円くらいならポンと受けられる。しかも破格の条件で。


 まあ、当然と言えば当然。

 探索者シーカーになれるのはスロット持ちだけ。そのスロット持ちは二千人に一人だけ。

 日本の現在人口は約一億八千万人。割合的に、スロット持ちは九万人前後の計算。


 とどのつまり、今や文明社会の根幹となっている魔石を筆頭、あらゆる技術の支柱を担うダンジョン資源を卸せる人材は、国内に僅か九万人しか居ない。延いて、その中で実際に探索者シーカー業を営む六万人そこそこに依存している。

 そりゃ優遇する。スロット持ちの一人でも多くに探索者シーカーとなって貰うため、この程度はどこの国でもやってる。

 脳の血管を詰まらせたような輩が時々でかい声で文句を言うが、探索者シーカーの数が減れば国が、そしてダンジョンがどうなるかなど子供でも知ってるため、誰も相手にしない。


 それに探索者シーカー用の装備は消耗品に至るまで高い。稼いでる奴ほどガンガン金を使って経済を回す。

 わざわざ不興を買ってまで、搾り取る対象に探索者おれたちを選ぶ必要が無いのだ。






「金よりも討伐ポイントが欲しい」


 支援協会のロビーで頭を掻き毟り、どうにかリゼを出し抜く方法を考える。

 ちなみにリゼは、すぐ隣に座ってる。スマホ弄りながら俺の肩を背もたれにするな。


「ねえ月彦。私、明日あそこ行きたい。佐世保のオランダみたいなとこ」

「テンボスか」


 テーマパークはいいよな。人間の方から勝手に集まってくれる。

 俺もクリーチャーを引き寄せるスキルとかあれば、歩くテーマパークになれるのにな。


「……誘引……そうか、その手があった!」

「きゃっ」


 勢い良く立ち上がる。必然、背もたれを失ったリゼがベンチソファに横たわる。

 恨みがましい目で睨まれた。




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