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「嘘だろ……」


 夕刻の探索者支援協会端島支部。

 受付窓口前で俺は、カウンターに手を置いて項垂れる。


「負けた」


 軍艦島に於ける二十番台階層でのクリーチャー討伐ポイント現計。

 二十二階層と二十三階層の後半戦で巻き返し、結果を見る必要も無いと意気揚々アタックを終え、帰還報告と同時に確認してみれば……僅差の敗北。


「負けた負けた、負けちまった。もうオシマイだ、お先真っ暗。第三部完」

「まだ終わってないし。しかも第一部と第二部どこ行ったのよ」


 海の底と宇宙。






 遠征先や内容を決める際に色々と話し合った結果、俺達は滞在予定の一ヶ月間でアタックを七回に分け、二十一階層からは一度につき二階層か三階層ずつ進み、最終的には四十階層までの到達を目指すと決めた。


 元々リゼはソロに求められる膨大なタスク処理がキツかっただけで、こと戦闘面では良質な装備も含め、二十番台階層のクリーチャーが相手だろうと、そうそう後れを取るレベルではなかった。

 加えて想像以上に相性抜群だったスキル『飛斬』の習得により更なる飛躍を遂げ、今や三十番台階層でも十全な働きが出来る域に到達していると考えて良い。

 故に、少々思い切った計画を立てるに至ったのだ。


「時期尚早と思うか?」

「……いいえ。悪くないわ」


 取り分け御誂え向きだったのは軍艦島の地理。全体マップを見る限り、三十番台階層までなら日帰りも難しくない。

 最短二日のインターバルを三日に伸ばし、疲労抜きと栄養補給に注力すれば、一ヶ月で四十階層到達は現実的なプランと言えた。


 あくまで、俺達の実力が本当に三十番台階層クラスに達していればの話だが。


「この七回のアタック、四十階層までの累計スコア……クリーチャー討伐ポイントで勝敗を決める」

「各階層毎のタイムリミットは一時間ってとこね」


 現状の自分達がどこまで通用するのかを試すと同時、競い合う。

 単なるアタックより、余程身が入るというもの。


 賭けてるからってだけじゃない。

 俺は勝負事に関しちゃ、死ぬほど負けず嫌いなのだ。






「勝ったと思ったのによォ……」


 ホテルに戻って絶賛落ち込み中。

 仰向けでソファを占領してると、僅かな隙間にリゼがすっぽり収まってきた。

 狭いわ。


「経験の差ね。フィジカルとかセンスはアンタが上でも、ダンジョンでの動き方は私の方が少しだけ詳しいの」


 アタックは残り六回。階層数は討伐ポイントが設定されていないフロアボスだけの三十階層と四十階層を除いて、キリ良く十五。

 次回以降はリゼも『飛斬』の消耗具合を把握した上で立ち回るだろう。となれば後半の失速も、ある程度は抑えられる筈。


「お前、手強いのな」

「当たり前でしょ。これでもアンタより二年半は長く探索者シーカーやってるのよ」


 図々しくも俺の腕を枕にドヤるリゼ。

 腹が立ったので、せめてもの報復に殆ど身体が密着するほど隙間を狭めてやった。どうだ苦しかろう。


 相変わらず、鼓動はっや。





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