74
「お邪魔しました」
一歩踏み入った瞬間に呪われ、奇怪な動きで襲い掛かる家主のクリーチャーに殺された後、ゴミ袋へと放り込まれる『呪いの家』。
レアと聞いたそれを見付けたもんで上がらせて貰ったら、同業者が先に捕まってた。
「このビービーやかましいブザー、どうにか音量調整出来ねぇもんかな」
「はっ……はっ……あ、あり、ありがとう、ありがとう……!!」
震えながら礼を述べる、三つも圧縮鞄を身に付けた
見た感じ二十番台階層で通用するとは思えん、下手すりゃ十番台階層も怪しいレベル。
聞けば仲間と逸れた模様。
「アンタのパーティに腕輪で位置情報送っといたから、別の階層に移ってなけりゃ受信して迎えに来るだろ」
ついでに家主のクリーチャーの落とした魔石、四千円級のそれをオッサンの背負う圧縮鞄に突っ込んでおく。
死にかけてコレとは割に合わなかろうが、ドロップ品も落とさなかったし仕方ない。
てか、あの奇天烈アクロバティックなゴミ袋おばさん、何をドロップするんだ。
「じゃ」
「え!? いや、ちょ、待って、一人にしないで!」
なんだコイツ。
知るかよ、ダンジョンでの生き死には自己責任だろ。
……さりとて放置し、また端末がビービー鳴っても困る。マジで耳障りなんだよな。
結局パーティメンバーが迎えに現れるまでの十五分ばかり、足止めされてしまった。
「む」
タイムロスを取り戻すべくビル街を駆け回ってると、遠くで聞き覚えのある鋭利な風切り音。
狂った笑い声に似た響き。間違いなく『呪胎告知』。
ビル同士の隙間に入り、交互に壁を蹴り上がって屋上に出る。
初めてやったが普通に出来るもんだ。
十階ほどの高さまで登った後、そこでフェンスに乗って踊り狂っていた『アクロバティックさらさら』通称『悪皿』を邪魔なので地上に蹴り落とし、音の聴こえた方へと目を凝らす。
暗くて確認し辛いが……ぐずぐずに腐ったアスファルトや倒壊した家屋で形作られた円の中心に立つリゼと、消え行く相当数のクリーチャーの姿が見えた。
「まだ余裕そうだな。今朝から大量に食ってやがったし、あと二発か三発は撃てると睨んでおくべきか」
尤も、そのくらいには予め余裕を作っておかなければ、一人きりの状況で『呪胎告知』など使うまいが。
「やばいな、また引き離された。くそったれ、クリーチャーどこだオイ」
こんな時スマホが。ダンジョン内で使えるか否かに関わらず、兎に角スマホがあれば。
電話をかけながら近付いて来る『メリーさん』とか、呪詛を孕んだ声でダメージを与える『ボイス』とか、携帯電話を攻撃の触媒に用いる都市伝説系クリーチャーなど沢山居るのに。
明日にしよう明日にしようと先延ばさず、ちゃんと買い替えておけば良かった。
「──お、居た。ラッキー」
ビルの下で誰かの脚を持って歩いてる、自分は脚が無い女。
脚無しで歩くとは何やら矛盾した言い回しに聞こえるが、細かい話はさて置き、そんな感じのクリーチャー。
「『カシマレイコ』か。逃がさんぞ」
背の高いフェンスを『豪血』で跳び越え、ダイブ。
着地の瞬間に『鉄血』を使えば、アスファルトに蜘蛛の巣状の亀裂が奔るほどの衝撃もノーダメージ。
尚、着地の際はスーパーヒーロー的なポーズで。
ついでに着地点にさっきの悪皿が虫の息で倒れていたので、頭を踏み潰す形でトドメを刺しておく。
「こぉんばんわぁああ」
〈ヒィッ!?〉
恐怖心を煽る側の怪異・都市伝説系クリーチャーが、人間相手にビビってどうすんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます