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 軍艦島六階層から十階層を形作るのは、干潟エリア。

 ぬかるんだ足元は体力を奪い、踏ん張りを殺す。反面、出現するクリーチャーはその環境に適応した種族ばかり。

 十階層のフロアボスは巨大ウーパールーパー、名を『ムツゴロウさん』。名付けた奴はウーパールーパーとムツゴロウの違いが分からなかったらしい。


「で、何が違うの?」

「ウーパールーパーはサンショウウオの仲間で両生類。ムツゴロウも水陸両生だが分類は魚だ。つまり全然違う、掠りもしてねぇ」


 滑る足元こそ鬱陶しかったものの、ベヒ☆モスと違って分厚い毛皮に覆われてるワケでもなかったので、腕力だけで叩き殺せた。

 寧ろブーツが泥だらけになることの方が厄介なエリアだ。


「洗いたい。次のエリアに水場でもあれば良いんだが」

「私、平気」


 身奇麗なリゼが、完全に泥を弾いた新品同様の靴で干潟を踏み締める。

 ちょっぴり『消穢』を羨ましく感じた。






 軍艦島十一階層から十五階層は、甲府迷宮と良く似た平原エリアだった。

 殆ど全てのダンジョンが五階層までは迷宮エリアであることから分かるように、浅いうちはダンジョン毎の特色が表れにくく、必然的に共通点が多くなるため、一桁台階層や十番台階層はバリエーション自体そこまで多くないらしい。


「しかも狭いし。普通に突破」

「ふああ……ねむ」






「鉄血」


 硬化した身体で、腹を突き破らんとした三叉槍を防ぐ。

 返す刀、反撃を試みるも、タッチの差でに潜られた。


「チッ、ちょこまかと」


 軍艦島二十階層。十六階層以降より続く湖畔エリアの終着点。

 フロアボスは青い鱗で全身覆われた半魚人マーマン。本当の名前は調べてないので知らん。


「うざってぇ」


 泥だらけの靴こそ綺麗に洗えたが、水場をテリトリーとするクリーチャーとの戦闘は陸上と勝手が違い、面倒臭い。

 只管にヒット&アウェイを重ね、地上戦を仕掛ける気配の無いコイツに、少しばかり足止めを食らってた。


「ま、そいつを差っ引いても流石に二十階層フロアボス。強いな」

「直接の戦闘能力はリャンメンウルフに劣るけど、環境的なアドバンテージが厄介ね」


 リゼの『飛斬』も水中では効力半減、湖底まで届かない。このままじゃジリ貧だ。

 よし。


「ちょいと引き摺り出してくる」

「は?」


 ジャケットを脱ぎ、水深三十メートルはあろう湖に飛び込む。

 文字通り水を得た魚状態の半魚人マーマンは、のこのこ己の土俵に踏み入った俺を嬲り殺すべく接近する。


 油断し過ぎ、だ。


ごぶげぶ豪血


 身体能力強化。槍と腕を捕まえ、膝蹴りで一瞬悶絶させる。

 そして――水上目掛け、ぶん投げた。


「――ぷはっ。リゼ!」

「りょ」


 回避行動さえロクに取れない、無防備な空中。

 演舞の如く鎌を振るうリゼの繰り出す、太刀筋通りの軌跡を描き飛来する斬撃に晒され、哀れ半魚人マーマンは地へ堕ちるよりも早く、活け造りと成り果てた。





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