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〔五分が経過しました。こんにゃく大使様、榊原リゼ様、御入場下さい〕
「なに今の名前」
「ハンドルネーム。個人情報漏洩対策で定期的に適当に変えてんだ」
待ち侘びた機械音声を耳にした直後、シャボン玉の膜に似た境界を越え、アタックを開始する。
甲府迷宮の入り口付近と似た構造。しかし道幅は少しばかり狭い。
六階層まで抜けるための道順は既にマップデータで把握済み。駆け抜ける。
「ゴブリン発見」
「私がやるわ」
進路上に現れたゴブリンを蹴り飛ばそうと加速しかけた俺を制し、圧縮鞄のレッグポーチとは逆側、左腿に差したナイフを抜くリゼ。
「んっ」
振るった刃の太刀筋をなぞり、分厚い筋肉で覆われたゴブリンの首を抵抗も無く刎ねた、飛ぶ斬撃。
スキル『飛斬』。その威力は大本となる斬撃に比例するが、軽い一振りでコレとは。
勿論リゼ自身の技量も合わさっての結果だろうけれど、流石は選択式のスキルペーパーで習得可能な戦闘系スキルの大当たり。オークション平均落札価格が一千万円を上回るだけはある。
「てか、小さいがイカしたナイフだな。そんなの持ってなかっただろ、どこの製品だ?」
「『飛斬』もあるし、閉所の戦闘用に買ったの。イチモクレンのハイエンドモデル高周波振動ナイフ、銘は『チドリ』」
イチモクレン。
億超えの剣とかカタログで見たぞ。そんな刃渡り十五センチにも満たないナイフすら、何百万出せば買えることやら。
「装備の充実は結構な話だが、この前のスキルペーパーにも二百万払ってるし、金の方は大丈夫だったのか?」
「不老効果持ちスキルを買うための貯金を崩したの。ほら、もう必要無いし」
ほう。
「言ってくれやがるな、お嬢さん。こちとら中学の時にはヤクザも道を開けてた男だぜ」
「アンタの半生どうなってんの」
十代特有の精神状態も合わさって死ぬほど荒れてた。
ついた渾名が新潟生まれでもないのに『越後の龍王』。或いは二十世紀末頃の作品でありながら未だにリメイクやゲーム化が後を絶たない往年の名作よりなぞらえて『戦闘民族』。
「溜まりに溜まった鬱憤を晴らすため、オヤジ狩りしてたバカを更に狩ったり、ホームレス狩りしてたアホを更に狩ったり、前に狩った連中が呼び寄せた応援を更に狩ったり、終いにゃ地元近辺のゴミ共が結託して包囲網とか張ってきたから、一切合切纏めて狩ったり……」
「……話、盛ってる?」
「いんや実話。十割実話」
当時の俺を主人公に、そのままヤンキー漫画が描けると自負してる。
つーか実際、中高で同級生だった梅沢くんが少年誌で連載貰ってるらしい。読んだこと無いけど。
「結局、俺の無聊を慰めるには至らなかったワケだが。寧ろ虚しくなって地元を離れた」
「その異常なフィジカルと戦闘技術の根源を理解したわ……人に歴史ありね」
歴史とか、そんな気取った話じゃない。
思い通り行かない現実に駄々を捏ねて、ただ周りに当たり散らかしてただけだ。
ところで。
「ナイフの銘はチドリ、だったか。なら大鎌の方は?」
「『
カッコ良っ。
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