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 装備を纏いロビーに戻ると、リゼの方が先に居た。

 いつもはこっちが待たされるってのに。珍しいこともあったもんだ。


「おい、あの子……」

「うおぉ、すげぇ格好」


 壁へ寄りかかって気だるくガムを噛んでるリゼに、ちらほら注がれる視線。

 やっぱ目立つのか、あのギチギチパツパツ。確かに他の女性探索者シーカーの格好を見る限り、異彩を放ってるが。

 少なくとも自分のスタイルに余程の自信が無ければ、絶対着れない。


「ガンツ社製のスライムスーツ、トキワの加力革帯パワーベルト、イチモクレンのナイフに……あの鎌は見たこと無いな、オーダーメイド? 超高級品揃いの装備じゃん」

「ソロかな? かなり上玉だし、パーティ誘ってみる?」

「やめとけって、どう見ても潜ってる階層のランク違うだろ。それに話しかけた奴との会話聞いてたけど、男待ちだってさ」


 ナンパなら他所でやれ。ダンジョンは戦場だ。


「待たせた」

「ん」


 リゼに声をかけ、なんとはなし周囲を一瞥すると、途端に集まっていた視線が散る。

 猛獣か俺は。






 フェリーに乗り込み、長崎港を発つ。

 何気に船って初体験だったりする。


「うえぇ……」

「酔うの早過ぎだろ」


 早々、顔が青褪めたリゼの背中をさすってやる。

 戦闘時は体操選手も顔負けのアクロバットを披露するくせ、三半規管が弱いらしい。いや寧ろ敏感過ぎるのか。


「深めに息しろ、ゆっくりな」

「背中よりも、お腹撫でて……臍下あたり……」






 甲板で三十分ばかり潮風を堪能しているうち、目的地である端島が見えてきた。


 事象革命以前の更に大昔、明治から昭和にかけて海底炭鉱で栄えた土地。

 なんと最盛期は、世界で最も人口密度が高かったとか。


「ほら見ろ、これが日本初の鉄筋コンクリート造りのマンションだとよ」

「住みたくない」


 幾度も補修が繰り返された半壊状態の廃墟を見上げ、渋い顔となるリゼ。

 人が住んでた頃は、もっと綺麗だったに決まってるだろ。


「ダンジョンゲートは、この裏手だそうだ。行くぞ」

「りょ」






 大抵が同じ外観のゲート前では、探索者シーカー達がパーティ単位で固まって屯していた。

 なんでも軍艦島は五階層まで続く迷宮エリアが極端に狭く、一度に人が雪崩れ込むと危険なため、ひとつのパーティが入った五分後に次のパーティが、という決まりらしい。


「最短ルートを急げば十分そこらで六階層に出られるってのは凄ぇな」

「ね」


 一桁台階層が貧弱過ぎればチュートリアルの機会が損なわれるためビギナーには厳しい環境だろうが、二十番台階層以降が目当ての俺達には都合が良い。

 順番待ち用の端末に腕輪を翳し、適当な瓦礫の上に腰掛け、アナウンスを待つ。


「まずは二十一階層だな」

「ええ。そこからは、ね?」


 やべえな。早くもワクワクしてきやがった。





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