69
装備を纏いロビーに戻ると、リゼの方が先に居た。
いつもはこっちが待たされるってのに。珍しいこともあったもんだ。
「おい、あの子……」
「うおぉ、すげぇ格好」
壁へ寄りかかって気だるくガムを噛んでるリゼに、ちらほら注がれる視線。
やっぱ目立つのか、あのギチギチパツパツ。確かに他の女性
少なくとも自分のスタイルに余程の自信が無ければ、絶対着れない。
「ガンツ社製のスライムスーツ、トキワの
「ソロかな? かなり上玉だし、パーティ誘ってみる?」
「やめとけって、どう見ても潜ってる階層のランク違うだろ。それに話しかけた奴との会話聞いてたけど、男待ちだってさ」
ナンパなら他所でやれ。ダンジョンは戦場だ。
「待たせた」
「ん」
リゼに声をかけ、なんとはなし周囲を一瞥すると、途端に集まっていた視線が散る。
猛獣か俺は。
フェリーに乗り込み、長崎港を発つ。
何気に船って初体験だったりする。
「うえぇ……」
「酔うの早過ぎだろ」
早々、顔が青褪めたリゼの背中をさすってやる。
戦闘時は体操選手も顔負けのアクロバットを披露するくせ、三半規管が弱いらしい。いや寧ろ敏感過ぎるのか。
「深めに息しろ、ゆっくりな」
「背中よりも、お腹撫でて……臍下あたり……」
甲板で三十分ばかり潮風を堪能しているうち、目的地である端島が見えてきた。
事象革命以前の更に大昔、明治から昭和にかけて海底炭鉱で栄えた土地。
なんと最盛期は、世界で最も人口密度が高かったとか。
「ほら見ろ、これが日本初の鉄筋コンクリート造りのマンションだとよ」
「住みたくない」
幾度も補修が繰り返された半壊状態の廃墟を見上げ、渋い顔となるリゼ。
人が住んでた頃は、もっと綺麗だったに決まってるだろ。
「ダンジョンゲートは、この裏手だそうだ。行くぞ」
「りょ」
大抵が同じ外観のゲート前では、
なんでも軍艦島は五階層まで続く迷宮エリアが極端に狭く、一度に人が雪崩れ込むと危険なため、ひとつのパーティが入った五分後に次のパーティが、という決まりらしい。
「最短ルートを急げば十分そこらで六階層に出られるってのは凄ぇな」
「ね」
一桁台階層が貧弱過ぎればチュートリアルの機会が損なわれるためビギナーには厳しい環境だろうが、二十番台階層以降が目当ての俺達には都合が良い。
順番待ち用の端末に腕輪を翳し、適当な瓦礫の上に腰掛け、アナウンスを待つ。
「まずは二十一階層だな」
「ええ。そこからは、ね?」
やべえな。早くもワクワクしてきやがった。
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