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紆余曲折経て諸々の予定も無事決まり、訪れた夏休み。
本日より約一ヶ月間、俺達の初遠征が始まる。
「国内線とは言え、ファーストクラスは流石に豪勢だな。広々使える。逆に落ち着かん」
「ドリンクサービス……ワイン? シャンパン? ドクペ飲みたいんだけど」
結局、リビングアーマーのドロップ品一式で儲けた金の浄財に失敗した俺は、ならばいっそ今回の遠征で盛大に使ってしまおうと考えた。
往復の飛行機利用など序の口。お陰で交通費と宿泊費だけで持ち金の半分以上が吹き飛び、大満足だ。
……今の俺、果たしてハングリーと呼べるのだろうか。
あんま考えんとこ。細かいことは気にするな。ハゲるぞ。
「月彦。ここの航空会社、使えないわ。ドクペも置いてないって。マストでしょ普通」
「あんな絶滅寸前のサイケデリックドリンク飲むのは、東日本でもお前くらいだ」
出発前、大学近くのコンビニで纏めて買って圧縮鞄に放り込んでおいたものを渡す。
大人しく飲んでろ。無理難題ふっかけて職員を困らせるな。
「キンキンに冷えてるわ」
「保冷剤詰めたクーラーボックスごと仕舞っといたからな。悪魔的だろ?」
「到ちゃ――あっつい」
長崎空港を出ると同時、夏の日差しに渋面を作るリゼ。
長袖膝丈黒パーカーに左右柄違いのニーソックスなんて履いてれば、そりゃ暑い。
「あついあつい、あーつーいー」
「パーカー脱げよ。下にも何か着てんだろ」
「ブラとショーツ。総レースの透けてるやつ」
「脱衣麻雀のサービスキャラか、てめぇは」
まあ少しの辛抱。長崎市内に取ったホテルまでの足も、ちゃんと用意してある。
本当に世の中、
「ほら行くぞ。あそこに停まってるリムジンだ」
「……やり過ぎと思うのは私だけ?」
「安心しろ。俺も別にタクシー、なんならバスでも良かったと絶賛後悔中だ」
計画段階だと躍起になって金を使うことしか考えてなかった。
遠征中の滞在先は、港に近いホテルのスイートルームを選んだ。
ひと部屋と数えておきながら、中に入ると三つくらい部屋があるのは何故だ。
尤も、お陰でわざわざリゼと分かれる必要も無かったんだが。
「ところで月彦。私、今回の遠征、宿泊費も交通費も、ドクペ代すら一円も払ってないんだけど」
「そもそも遠征に誘ったのは俺だし、なら俺が払うのが筋だろ」
かこつけて散財に協力して頂いた次第。
大金抱えてるだけで、既に落ち着かん。
「……どうも納得行かないけど……ま、良い部屋ね」
そうかそうか、そうだろう。そう思うのは当然だ。
何せ。
「お前が渋谷宝物館で、ああいうところに泊まりたいって言ってたからな。近い雰囲気の場所を探した」
「…………」
したり顔で告げると、何故か仏頂面となったリゼが俺の口に板ガムを詰め込んできた。
なんだコイツ。
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