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 地上に戻り、体内ナノマシンのペアリングを解除し、立って歩くくらいまでは回復したリゼと一度別れてシャワーや着替えを済ませ、帰還報告。

 大体の流れは甲府迷宮を攻めた後と変わらんのに、逐一行動を指定される所為で、この味気無さよ。


「では此方、ダンジョンボス討伐の特別手当になります」


 最初とは別の職員が、数枚の万札をカルトンに乗せる。

 十万か。難度一のボスなら、こんなもんだろ。


「よう。アンタ達も戻ったのか」


 聞き覚えのある声に振り返れば、四階層で会った探索者シーカー


「まだ居たのか」

「スキルペーパーの売却交渉でな。ま、協会相手じゃ結果は予想通りだが」


 相手は型に嵌めて量産したような役人。しかもダンジョン資源の売れ行きが直接給料に関係するワケではない立場ゆえ、商売熱心とも言い難い。

 交渉を粘ったところで、良くも悪くも相場の価格から変動することは無いだろう。


「売ったの?」


 ガムを噛んでたリゼが、ふと問う。


「いや、暫くは手元に置いとくさ。欲しがってる奴が居たら、高値で買ってくれるかも知れないしな」

「そう……なら、ちょうど良かった」


 風船を膨らませながら、パーカーのポケットに放り込んだスマホを取り出すリゼ。

 開いたのは、銀行アプリ。


「二百万で私が買うわ。振り込むから口座番号教えて」






 外に出れば、未だ陽の高い昼下がり。

 まあ、都合三時間くらいしか居なかったし。


「どういうつもりだ?」

「何が?」


 手中でスキルペーパーを転がすリゼと並んで歩き、尋ねる。


「そいつは時価だが、今のレートなら百万もあればオールランダムは買える」

「店頭に並んでも大抵すぐ売れちゃうけどね」


 然り。ならばこそ、その半額にも満たなかったろう買取価格の数倍に及ぶ金をチラつかせ、即決させたのは分かる。

 だが何故リゼは大金を払ってまで、そんな物を買い求めたのか。


「お前のスロットは残り一枠。欲しいのは不老効果持ちスキル。それを使えば確かに習得出来る可能性はあるが……分の悪い賭けなんてレベルじゃねーぞ?」


 全部で幾つ存在するのかさえ不明瞭な夥しい種類の中から、たったひとつが無作為に選ばれるのだ。

 果たして何万、何十万、何百万分の一になることか。


「そうね。でも、だったら、もうちょっと勝ち目のある賭けにするだけよ」

「何?」

「閃いたの。物凄く画期的なアイディア」


 そう言ってリゼは数歩ばかり前に飛び出し、俺を振り返った。


「ねえ月彦。今度の遠征で私と勝負しましょ? 負けた方が勝った方の命令を、ひとつ聞くの」

「……あァ?」


 藪から棒に、なんだいきなり。


「私が勝ったら『ウルドの愛人』を使


 …………。

 ああ、そうか。そういうことか。


「これで手に入れたスキルを、


 敢えて言わなかったのに、コイツ気付きやがった。

 億単位の金を用意するまでもなく、熾烈な争奪戦を勝ち抜くまでもなく。

 ひょいと、己の渇望を叶えられる道筋に。


「どう? ただ知らないダンジョンを漫然と攻めるより、この方が楽しいと思わない?」


 しかも。俺の性格まで、考慮した上で。





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