63
四階層で同業者と出くわした。
向こうは帰る途中らしく、何やら微妙な顔で溜息など吐いている。
「景気悪りぃツラだな。鑑定系のオンパレードでも出しちまったか?」
「流石に、それよかマシだが……見てくれよ」
差し出されたのは、封蝋を捺された掌サイズのスクロール。
俺が『ウルドの愛人』を得るに至った、考え方次第では一番の当たりであり一番の外れでもある、あらゆるスキルが得られる可能性を秘めたオールランダムペーパー。
「『飛斬』や『グランドスパイク』みてぇな大当たりが入った選択式とまでは期待してなかったが、同じランダムなら、せめて戦闘系限定のスキルペーパーが欲しかったぜ……」
現在発見されているスキルの中で戦闘系に属するのは、精々一割か二割。
そっち系統のスキルが欲しいなら、確かにオールランダムは二の足を踏む。
「二年待ってコレたぁ割に合わねぇや。上手く高値で売れりゃいいが」
がっくり肩を落とし、立ち去る男。
予約待ちという雌伏を乗り越えても、望む結果が待っているとは限らないワケか。
諸行無常。
やって来ました洋館エリア。
そして九階層。
「甲府迷宮の古城エリアより綺麗だな。それに品もある」
「泊まりたい……」
エントランスのシャンデリアを仰ぎ、ほう、と吐息するリゼ。
さて目的地は、と。
「正面左二番目……ここか。入るぞリゼ」
「りょ」
腕輪型端末のデータから引っ張り出したマップが示す部屋に入れば、一面ギッシリと書物が詰まった本棚。
このどこかに、スキルブックが隠れてるらしい。
「これを探すのかよ。だから十二時間もリミットあったのな」
蔵書数ざっと数万冊。
一冊一冊検めるとなれば、確かに一時間や二時間では足りないだろう。
「めんどくせぇなオイ」
どうせ自分が使うものではないため早くも萎えつつあった俺に対し、すたすた歩くリゼ。
部屋の中心に立ち、そのまま大鎌を構え、溜めに入った。
「月彦」
「……あぁ、そうか。その手があった」
ダンジョン内の建物や地形は、どんなに破壊しようと一日あれば復元する。
物品も同様。加えてダンジョン外へ持ち出そうとも魔石やドロップ品以外はゲートを潜った瞬間に搔き消え、元あった場所に戻る。
要は――荒っぽい手段を取っても、人的被害さえ出なければ、誰も咎めない。
狂った笑い声に似た風切り音と共に、見る影も残さず崩壊した洋館エリアの一室。
そして、瓦礫と共に降って来たスクロール。
封蝋のデザインは交差する剣。戦闘系の証。アタリだ。
気になる中身は。
「選択式だな。五つある」
へたり込んだリゼに代わり、検分を行う。
──特定のパンチの威力が増す『ロングフック』。
限定的過ぎるし、両手で大鎌を操るリゼに拳打系のスキルは合わない。
──縄を使った様々な技術を扱える『ロープアクション』。
利便性は上々だが……戦闘系でいいのか、これ。
──鋼鉄をも砕く膂力を蹴りへと与える『十六文キック』。
ただし足のサイズが四十センチ以下の場合は不発って、こんなもん誰なら使えるんだ。
──高圧電流で槍を造り出す『サンダーランス』。
最後に。
「……大当たり。飛ぶ斬撃こと『飛斬』だ」
使い勝手の良い遠距離攻撃。俺達に欠けてた要素をピンポイントで補う系統のスキル。
しかもドロップ品の差し替え、つまりイカサマは一切無し。
リゼのリアルラックの賜物だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます