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「いよいよ夏休みの到来だぜい! 俺ちゃんハワイとドイツとオーストラリアに行く予定ナリ!」

「行き過ぎだ」


 夏休みは毎年最低三ヶ国回るとかで大はしゃぎの吉田。

 曰く、旅行のための纏まった時間が容易く取れるのは学生の内だけだから、との談。

 チャラ男のくせ的を射たこと言いやがる。


 にしても海外か。外国のダンジョンという手もあったか。

 複雑な利権の問題で申請は面倒だし許可が下りるまで時間もかかるが、是非とも足を運んでみたい。

 流石に今回は無理だけれど、追々の機会に備えて書類くらいは揃えておこう。


「お土産、楽しみにしといてくれな! 木刀買って来るぜ木刀!」


 海外旅行で何故、木刀。






「月彦」


 キャンパス内の浮ついた雰囲気を擬人化したようなテンションで吉田が食堂を去ると、入れ替わりに別の出入り口からリゼが現れた。

 こういうニアミスこれで何度目だ。顔を合わせる機会の無い奴等め。


「飯を食うべく食堂に来てるのに、どうしてガムなんぞ噛んでやがる。ジャンキーかよ」

「ジャンキーよ。悪い?」


 自分でジャンキー言う奴、初めて見た。


「ま、もう捨てるけど。チョコ食べたいし」


 甘味系第四惑星菓子星からやって来た菓子星人め。

 これで普通に飯も一人前以上食べるのだから大した健啖家だ。


「昨日『呪胎告知』で消費した分を取り戻さなきゃね」

「消費するために『呪胎告知』を使ってる、の間違いだろ」


 …………。

 ところで最近、少し考えてることがある。リゼのスキルについてだ。


 四種が並ぶ現在のラインナップで唯一戦闘系に属する『呪胎告知』。

 まともに食らえば『鉄血』状態の俺でも致命傷を負いかねない威力と攻撃範囲は驚嘆。

 しかし消耗が激し過ぎる上、使った直後は強烈な空腹感と喪失感で動きが鈍る。

 溜めに必要な時間も最低五秒と決して短いとは言えず、前後の隙を鑑みるに使い勝手は悪い。


 今後、より下層を目指すにあたり、このままでは不安が残る。

 俺はいくら怪我をしようと構わんし、なんなら死んでも本望だが、嫁入り前の女に傷痕を残すのは忍びない。


 解決策は一応、二案ある。

 新たな仲間を引き入れるか、リゼに新しい戦闘系スキルを取らせるかだ。


 が……正直、人を増やすのは気が進まない。


 二十番台や三十番台階層で通用する中堅どころの探索者シーカーは大抵既にパーティを組んでる。実力の劣るソロを下手に引き入れても足を引っ張られるだけ。

 重ねて、なんやかんや俺とリゼは出会って間もなく打ち解けたほど波長が合うため、ダンジョン内での立ち回りも半ば確立してる。

 そこに別の人間を混ぜ込めば、そいつが余程の腕利きでもなければ安定感は寧ろ下がるだろう。フットワークも重くなるし。


 あと、やたらリゼが嫌がるんだよな。パーティの増員。


 となると必然的に、採るべきは第二案の新スキル習得。

 スロット二つの俺はもう無理だが、リゼのスロットは六つ。欲しがってる不老効果持ちスキルの枠を除いても、ひとつ残ってる。


 そして。つい先日タイミング良く、が俺の元に舞い込んだのだ。


「なあリゼ。前に言った心臓移植の子な、九月に退院が決まったんだよ」

「ふーん」


 チョコレート食うのやめろ、興味無しか。

 俺も逆の立場なら、きっと同じく興味無いけど。


「明後日、前祝いに顔出す予定でな。それ、お前も来い」

「……は? なんで?」


 漸く食べる手を止め、怪訝そうに俺を見るリゼ。

 対する俺は腕輪型端末に表示させた地図を拡大し、東京の一点を指差した。


「顔出すついで、ダンジョン行こうぜ――『渋谷宝物館しぶやほうもつかん』は、知ってるだろ?」





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