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「そういやリゼ。お前、試験どう――」
「聞かないで」
空間投影型ディスプレイでダラダラと映画を観ながら、なんとはなし向けた質問。
しかし言い終えるより先、平坦な声で返された。
「…………」
「…………」
ちょうど映画が静かなシーンなのも相俟って、かなり気まずい沈黙だ。
どうにか盛り返さねば。
「あー、その、アレだ。お前、何か欲しいものあったりするか? なんだかんだ世話になってるし、金も入ったし、結構な無茶でも聞ける感じ――」
「単位が欲しい」
生憎と金で単位は買えない。
つーか買えたら大問題。
「……そんなヤバいのか?」
「留年しそう」
そこまで切羽詰まってんのかよ。
まあコイツ典型的な宵っ張り朝寝坊だし、遅刻とか欠席とか多そうだもんな。塵も積もればチョモランマ。
しかし困った。夏休みには他県まで遠征を考えてたし、当然コイツも誘う予定だった。
けれど留年のチラついた精神状況で、身が入るとは思えない。
どうする、このままでは計画倒れだ。流石に見ず知らずのダンジョンをソロは厳しい。まあそれはそれで面白そうではあるが。
兎に角、何か手は無いか。と言っても試験は既に終わり、結果を待つばかりの段階。
今更になって足掻いたところで、済んだことは変えられ――
「あ」
いや変えられるわ、過去。普通に。
「心配すんなリゼ。もし結果がアレなら、俺が合格点を取れた過去に差し替えてやる」
スキルの悪用は犯罪だが『ウルドの愛人』の性質上、発覚することは恐らく無い。
バレなきゃ使っていいのか? 勿論バレなきゃ使っていいんだよ。
「助けて、くれるの……?」
弱々しい眼差し、萎れた態度。
マイペースなダウナー女も、やろうと思えば、しおらしく振る舞えるのな。
鬼の目にも涙。
「助けるも何も、お前自身が遂げていたかも知れない成功を引っ張り出すだけだ」
合格点を取れる可能性自体が見えなかったら詰むけど。
合格点を取れる可能性自体が見えなかったら詰むけど。
大事なことなので二度言っておく。そこは流石に大丈夫、と信じたい。
「……ありがとう、月彦……っ」
肩の荷が下りたとばかり、安堵の溜息と共に抱きついてくるリゼ。逼迫具合が窺える。
ついでに。
やっぱ華奢な割、そこそこ胸あるなコイツ。
で、後日。
「どこだ可能性……! 嘘だろオイ、リゼてめぇ試験勉強ちゃんとやったのか!?」
「ええ。一日五分ほど」
五分て。それでやったと言える神経の太さに驚くわ。
もう留年してしまえ。
……最終的に各科目の各問題毎まで細かく分けて過去を差し替えることで、どうにか一線は越えられた。
軽はずみに無責任な約束とかするもんじゃない。
「いいわね、これ。次の試験の時もお願い」
二度と御免だ。
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