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一刻も早く金をコンビニの募金箱に突っ込もうとしたら、トラブルの原因になるからやめてくれと店員に頭下げられた。
まあ、セルフレジ横に大金の詰まった半透明の箱が置いてあれば、つい魔が差す奴も出るよな。
「つーワケで絶賛浄財活動中だ」
大学近くのタワーマンション。
フロントのインターホンでリゼを呼び出し、入り口を開けて貰い、十八階にある彼女の部屋を訪ねた俺。
菓子折り、どうぞ。
「しかし生憎とボランティアの類には生まれてこの方、無縁でな。案を募りたい」
「慈善団体に寄付でもすれば?」
いつもと同じ膝丈黒パーカー……だが実は微妙に異なる複数種のバリエーションを毎日の気分で選んでる、密かなこだわりの格好で出て来たリゼ。
今日のはフードに長いウサ耳飾りが付いたやつ。一番お気に入りのオシャレ着だな。
菓子折り美味いか、そーかそーか。でも玄関先で開けて食うか普通。
「ああいう奴等に大金渡すと調子に乗って何度も来るって聞くぜ。タカリに付き纏われるなんざ御免だ」
「だったら前も言ったけど、装備のグレード上げなさいよ。九百万あればミドルモデルなら大抵のシリーズ揃えられるでしょ」
「今の装備、仕立てさせたばっかだぞ。前のを焼かれたジャケットに至っては袖すら通してねぇ新品だ。デザインも割と気に入ってるし、ぽこぽこ買い換える気にはならん」
金など食って行ける分だけあればいい。
もしも新しい装備が欲しくなったら、その時に稼げばいい。
これぞ人の在るべき正しい姿よ。
「マジどうしたもんか。甘木くん御家族にこれ以上の金を渡すと却って迷惑かけかねんし……ギャンブルに突っ込んで溶かすか? いや、あんまり粗末に扱うのも、それはそれで何か違うだろ……」
持て余す。
下手な強敵より、よっぽど始末に負えん。
――
と言っても、理由は明白だ。
金さえあればこうも容易く成し得た夢を、金が無いがために手すら伸ばせなかった十数年の鬱屈に対する逆恨みと八つ当たりに過ぎん。
要は子供の駄々と同じ。みっともないったらありゃしねぇ。
「金持ちになるのが嫌なんて、変な男ね」
「なんとでも言え。腹空かしてるくらいの身軽さが俺のウリだ」
「そ。なら上がりなさい。お菓子くらいならあるわよ」
物理的に空腹なワケじゃねぇよ。
「座るなら適当なクッションか、ベッド使って」
誘われてまで断る理由も無かったため、なんやかんや部屋に御邪魔した。
内装は、まさしくザ・一人暮らしの女子大生って感じ。定期的にアロマでも焚いてるのか、甘い匂いが薄く立ち込めてる。
床全体に敷かれたフカフカのカーペット、その隅に山と積んであるクッションを借りる。
なんで女の部屋って、こう柔らかい小物が多いんだ。
それと。
「男を上げるなら、干してる洗濯物くらい片付けろ」
「忘れてた」
レース系の生地は瞬間乾燥機にかけると痛むからか、キャスター付きのハンガーラックに並んだ下着類。
派手と言うか、だいぶ際どい系のラインナップ。
コイツ、パーカーの下にあんなの履いてるのか。意外……でもねぇな、うん。
戦闘装束に至っては、完全にボディラインが浮き出るギチギチパツパツスーツだし。
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