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「あー」
十五時間という長きに亘った、つむぎちゃんの大手術成功より二週間。
同時に、スキルの仔細を話した院長が俺の力を国家のため世界のために使うべきだとかなんとか延々煩かったので、かったるくなって『一度しか使えない無条件の死者蘇生スキルだと話した過去』に差し替えてから二週間。
「うー」
とんだ二度手間だったわアレ。思い出すだけで疲れる。
いっそ、つむぎちゃんが死んだ過去を変えた時、痕跡を消しとけば良かったと絶賛後悔中。あの時は精神衛生状況最悪で、そこまで気が回らなかった。
一度差し替えた過去は、もう弄れないんだよな。
「おー」
ともあれ。夏休み前に行われる定期試験も終わり、あとは結果を待つだけとなった今日この頃。
「どーしたもんか……」
俺は。目の前に積まれた札束の扱いに、困り果てていた。
事の始まりは、つい昨日。
この日はこの日で、別のことに困ってた。
「邪魔じゃい」
俺の住むアパート、四畳一間の隅に陣取る、剣と盾を携えたプレートアーマー 。
後先も考えず集めてしまった全身鎧に、生活圏を脅かされつつあったのだ。
「改めて考えれば、こんなもん要らねぇだろ」
俺が気まぐれ、気分屋と言われる所以のひとつ。
例えばゲーセンとかでアクリル板の向こう側に並ぶ景品が無性に欲しくなるにも拘らず、いざ手に入れれば興味を失くす。
そういう類の悪癖。
「クッソどうする。圧縮鞄に入れちまうか?」
しかし、そうなると今度は圧縮鞄の容量が圧迫される。根本的な解決策とは言い難い。
暫し悩んだ俺は、溜息混じりに腰を上げた。
「よし、売っちまおう。売って肉うどんでも食いに行こう」
無駄金が増えることになるが、売却価格は多分、数十万円くらいの筈。
今月来月分の生活費は既に押さえてあるし、余った金は、またコンビニの募金箱に突っ込もう。
ビバ、ハングリー精神。
「すいません。もう一度お願いします」
聞き間違いかと耳穴を引っ掻き、探索者支援協会買取窓口の担当さんにリピートを願う。
向こうは椅子に掛けたまま軽く一礼すると、抑揚に欠ける調子で再度告げた。
一言一句、最初と変わらない台詞を。
「リビングアーマーのドロップ品一式の買取価格は、九百六十万円となっております」
なんで、そんな高いんだ。
リゼが言ってたぞ。この装備の性能はミドルクラス程度だと。
ミドルクラスっちゃ、セット販売価格帯は高めの車と同じくらい。マックス八百万ちょいでしょうよ。
なら売値は精々その一割二割。どんなに高くても半分程度だろ。
「此方、揃えるまで大変手間がかかるため、フルセットは市場に殆ど出回らず、コレクション用の希少価値が付いておりますので」
理由を問えば、そのような返答。
コレクション用の希少価値て。意味不明過ぎ。武器も防具も使ってナンボだろうが。
…………。
でも、家に置いててもマジ邪魔なだけだし。売る他に無い。
斯くして俺は、またも不要な大金を得てしまった。
さよならハングリー精神。
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