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 高級感のあるテーブルセット。柔らか過ぎて逆に落ち着かないソファ。

 やたら装飾の細かいティーカップで出された紅茶に口をつけると、飲んだことの無い味がした。


「お酒の方が良かったかな?」

「生憎と下戸だ」


 対面に腰掛けるのは、物腰丁寧な初老の男。

 曰く、この病院の院長とか。


「……偉い奴の前に引っ張り出されるのは、これで二度目だな」


 一度目は先週、支援協会に申請書を出した時。

 防音設備が行き届いた応接室に連れられ、体内ナノマシンを一時的に不活性化させる、なんて手間のかかる真似まで施した後、詳細な説明を求められた。


「用件は分かってる」


 正直、質問なら支援協会甲府支部に問い合わせて欲しい。

 コマーシャルでもあるまいし、同じ内容を何度も話すのは好きじゃない。疲れる。


 ……とは言え、仮に問い合わせたところで内容が内容。あらゆる理由をつけて協会が確言を避けるのは明白。

 まともな返答が届くのは、果たしていつになるやら。


 どうしたものか。突っぱねても構わんが、それで妙な真似に出られても鬱陶しい。

 何せ俺のしたことは、謂わば人類が夢見る奇跡のひとつなのだから。


「チッ……コーヒー」


 要は結局、素直に応じるのが一番の早道なワケだ。

 カップを突き返した俺の呟きに、院長は目を瞬かせた。


「ほぼ一日、手術室の前に立ってて眠いんだよ。エスプレッソ淹れてくれ。飲んでる間は付き合う」






「死者を蘇らせるスキルは、確かにある」


 苦味が沁みる……良い豆、使ってやがるな。知らんけど。


「……んなもん誰でも知ってるさ。かの有名な『リザレクション』だろ」

「そうだね、広く開示された情報だ。習得者はロシアに一人、アメリカに一人」


 尤もアレは、その万能感に満ち満ちた名ほど便利な代物ではないが。

 何せ。


「一人の命を奪い、死後間も無い一人を蘇らせるスキル。アメリカとロシアでは自殺希望者や死刑囚のを受け、年間で数百人が救われてると聞くね」

「どうせ捨てるなら再利用しましょうってか。ちょいとニュアンス捻るだけで、半強制の生贄も違って聞こえるもんだよな」


 俺の皮肉に院長も思うところがあるのか、曖昧な表情で暫し口を噤む。


「……だが……だが、君が小比類巻さんを蘇生させた方法は、それとは全く異なるものだ」


 曰く、つむぎちゃんの死因は、ほぼ出ないと目されていた、移植した心臓の拒絶反応。

 閉胸後、手術終了を告げる間際、唐突に異変が生じ、処置を取る暇すら無かったらしい。

 専門的な話は分からんので、ほぼ聞き流してたが。


「小比類巻さんの心臓は、調べたところ、考え得る限りで最良の状態だった。を用いた上で、完璧に施術されていた」


 さいで。


「以前『リザレクション』の具体的な効力に関する論文を読んだが、自己治癒能力の促進で死因となった病気を治した事例こそあれ、移植臓器の拒絶反応を消すどころか、受けた手術の内容そのものを患者に最適な形へと変容させる効果など、一切確認されていない」


 熱が入り始めたのか、段々と早口に。

 身を乗り出すなよ。歳食ったオヤジに迫られても不快なだけだ。


「教えてくれ! 一体、何をしたんだ!? どんなスキルを使ったんだ!?」

「取り敢えず落ち着け」


 詰め寄るな詰め寄るな。


 …………。

 まあ、なんだ。説明する分には、そんな難しい話じゃない。


「ったく……スキル名は『ウルドの愛人』」


 身体能力強化、感覚機能強化、肉体強度上昇、耐毒、耐熱、耐冷、他色々。

 血の減少という割かし重いリスクと引き換えに様々な効果を併せ持つ我が第一スキル『双血』と違い、先週まで名前さえ無かったこの第二スキル『ウルドの愛人』に出来ることは、極めてシンプル。


「内包する力は、ひとつ」


 確率の操作などではない。

 幸運値の底上げなどでもない。


 たったひとつ。そう。






だ」





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