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「うぇあー。月ちゃん、おひさー」
大学の食堂で昼飯を食っていたら、いつも通りチャラついた格好の吉田が現れた。
久し振りと言うほど、前に会った時から間は空いてないぞ。
「最近は月ちゃんがあんまり遊んでくれなくて俺ちゃん寂しいちゃん。ゲーセンでリアダンとかやりに行こうぜぃ、好きだったべ?」
リアダン。リアリティ・ダンジョン・ワールド。VRを使ったダンジョン体感ゲーム。
誤解するな。あんなもの、間違っても好きだったワケじゃない。
プレイしてた理由は単なる鬱憤の発散、スロットを持たず生まれた己に対する蔑みすら篭めた代償行為だ。
「何が悲しくて今更……しかもアレ、実物と相当難易度違ったぞ」
木の棒で軽く叩けば死ぬゴブリンとかな。
大衆遊戯ともなれば過度なリアリティより爽快感が重視されるのは分かるし、そもそもエンターテインメントとはそういうものだが、そいつを真に受けたデビューしたての新人
ゲームと現実の区別もつかん奴は、いつの時代にも居るのだ。
「俺ちゃん、こないだドラゴンに勝ったナリ。スゲくね? もしモノホンがダンジョンから出て来ても倒せるかも!」
「馬鹿が」
ここにもゲームと現実の区別もつかん奴が一人。
──リアダンのラスボスは、イギリスのとあるダンジョンに棲息する同名のクリーチャーをモデルとしている。
世界で最も有名な討伐不可能指定クリーチャー。Dランキング上位のトップ
要は地震とか台風と同じ、立ち向かうこと自体が無謀な天災の類。
「ドラゴンってのは、人間の手に負えねぇからこそドラゴンなんだよ」
「え、じゃあ月ちゃんてば人間やめちゃうワケ?」
なんでそうなる、このチャラ男が。
「だって月ちゃんさー、ドラゴン出て来たら真っ先に喧嘩売りそうじゃん?」
「…………チッ」
この、チャラ男が。
「来週からは待ちに待った試験だぜ、ひゃっほう!」
試験を楽しみにする大学生など、世界中探してもコイツくらいなもんだろう。
特に成績が良いワケでは無いにも拘らず、何故だ。
「月ちゃん、明日講義終わったら一緒にベンキョーしましょ! なんなら例の史学科のコも混ぜちゃってさ!」
「断る。ほぼ科目が被らん奴ばかり集めてどうすんだ」
ついでに試験期間が終わるまでリゼに近寄りたくない。
アイツ少しどころか相当ヤバいらしく、最近は大学で見かける度、人でも殺しそうな目で空間投影ディスプレイを睨んでるのだ。
……それに。
「どっちにしろ明日はサボる」
「え? なになに、遊びに行くん? 俺ちゃんもオトモしたいちゃん!」
「違う」
勉強すると宣った舌の根も乾かんうちに、コイツ。
「十秒前の発言にくらい責任持ったらどうだ」
「俺ちゃん過去は振り返らんナリ。で、どこ行くカンジ?」
コイツの人生、きっと楽しいことばかりに違いない。
真似しようとは全く思わんが。
溜息ひとつ、挟む。
「……都内の病院だ。知り合いの手術日でな」
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