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剣戟の金属音と、火花が弾け飛ぶ。
「ハイハイハイハイハイハイ、ハイヤァッ!」
打ち合う毎に覗き見える技量。構えや剣の握り方に至るまで研鑽された術理。
古城を彷徨うばかりの鎧が如何にしてここまでの技を得るに至ったのか、俺には知る由も無い。
「ワックスオン! ワックスオフ!」
確かに大した腕前だ。冑を奪わず普通に戦ったら手強い奴だ。
しかし、コイツで十体目。
個々の工夫こそあれ根本は同じ、謂わば流派。
その理、その精髄。既に盗ませて貰った。具体的には三体目くらいで。
「オラどうしたダニエルサン! てめぇのカラテはそんなもんかぁ!?」
「アンタの出す映画ネタ、古過ぎて分かんないのよね」
身体の透けた
そいつ俺の拳が効かないんだよな。
まあ水銀刀の素材、聖銀どころか銀ですらねーけど。
二十番台階層クラス程度の下等な奴等だと、銀色なら何でもいいっぽい。
「お」
リビングアーマーが盾を突き出し、守りに入った。
水銀刀は刀の名こそ冠せど実態は鈍器に近い、液体と固体の特性を併せ持った特殊武器。
衝撃を受ければ表面が波打ち、それを元の形に戻そうと働く反作用で運動エネルギーを跳ね返す構造。
頑丈な西洋剣だろうと容易く刃が毀れる。打ち合いは不利と悟ったか。
しかも、ただ苦し紛れに守勢を選んだワケではない。
カイトシールドの奥で振り上げられたツーハンドソード。その剣身に纏わり付く、澱んだ黒。
リビングアーマーの扱う魔法『オーバーエッジ』。破壊力も攻撃範囲も月とスッポンだが、分類的にはリゼの『呪胎告知』と同じく溜めを行うことで一撃必殺の威力と斬れ味を得る異能。
水銀刀ごと俺を斬る気か。
面白い。受けて立とう。
「ハハッハァ!」
此方に押し付ける形で捨てられる盾。
払い除ければ、両手でしっかと柄を握った全力の唐竹割りが迫っていた。
恐らく『鉄血』でも完全に衝撃は殺しきれないだろうと、直感的に理解する。
「豪血」
全身に奔る赤光の線。一秒弱のみ身体能力を引き上げる。
柄頭で剣の腹を叩いた。斬れ味と威力が膨れたところで、逸らせば何の意味も無い。
「くたばりやがれキック」
間隙に差し込んだ前蹴り。直後『豪血』を解く。
中身が空ゆえ見た目ほど重くないリビングアーマーは紙屑同然に吹き飛び、背後の壁に亀裂を広げ、バラバラとなった。
「ふう……あの特訓はそういうことだったんですね。分かりましたよミスター・ミヤギ」
「だから誰よ、そいつ」
データ落としてあるから、今度俺のアパートで一緒に観ようぜ。
一九八〇年代の映画は豊作揃いだ。レトロってのも悪くない。
あらゆる技術が躍進を遂げた事象革命以前の産物を、化石と馬鹿にする奴は多いがな。
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