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 あちこちブッ壊れた、惨憺たる有様の廊下。古城ってか最早廃城。

 まあ、どういう理屈か一日あれば何もかも元通りに直るんだが。


 ともあれ、カロリー補給を済ませたリゼと瓦礫の中を戦利品探し。


 イライザのものと思しき魔石は、まさかの八千円級だった。

 古城エリアどころか、最深部の坑道エリアにも多くは居ないレベルだ。


 また、腕輪型端末で調べたところ、イライザは奴が操る蝙蝠を倒すほど強くなるらしい。


 囲んで嬲り殺せれば良し、よしんば凌がれようとも強化された己が相手取れば良しの二段構え。

 つまり『呪胎告知』で諸共に仕留められなかったら、更なる苦境が待ち受けてたワケだ。


「勿体無い真似しちまった」

「どうせ下手に近付いたら、もっぺん『魅了チャーム』食らってたわよ」

「マジか」


 結局のところ、男は女性型との遭遇自体を避けるべきってワケか。つまらん。


「よし回収完了。多分これで全部の筈」


 蝙蝠共も個別のクリーチャーだったようで、魔石を持っていた。サイズは二千円級。

 軽く数百匹居たから、これを加味するとイライザ一体につき数十万円の稼ぎが手に入る計算。


「魔石は倒した奴の取り分でいいだろ。俺が蝙蝠一匹分、あとお前のな」

「馬鹿も休み休み言いなさいよ、二人で倒したんだから折半に決まってるでしょ。アンタが私を抱えてなきゃ、斬り刻まれて死んでたわ」


 その場合、お前なら無理やり包囲を突破して直接イライザを狙っただろ。

 物理攻撃無効を得る代わり非物理耐性が著しく下がる『幽体化アストラル』こそ使えずとも、パツパツのスライムスーツとギチギチなベルトの恩恵で身体能力は大幅に上がってる。

 多少の怪我こそ避けられねども、負けはしなかった筈。


「いいから取っとけ。世の中、女の方が金を食うもんだ。不老系のスキル欲しいんだろ」

「アンタこそ燃えたジャケット買い換えるのに要るんじゃないの?」


 そこを突かれると痛い。


「……分かった分かった。じゃあ、せめてはそっちが貰え」


 さっき拾ったイライザが着ていたマントと同じ物を突き出す。

 ただでさえポップ数が少ない女性型クリーチャーの、これまた割合的には百分の一を下回る確率でしか落ちないドロップ品。俺ならだが。

 影に潜る能力や蝙蝠を溢れさせた現象と関連性があるのか、加工すると高品質の空間圧縮鞄の裏地や、他にも様々な用途で使えるそうだ。


 安定した供給が不可能なため、買取価格は時価。

 端末の情報だと今は特に品薄らしく、二百五十万円まで跳ね上がってる。


「それ貰うなら魔石は全部アンタ行きよ。今回のアタックで手に入る分、全部」

「要るか。今からリビングアーマー祭り開催すんだぞ、総額百万超えちまうわ。五万もありゃ新しいジャケットは買えんだ」

「装備のグレード上げなさいよ。安物で二十番台階層歩いてんじゃないわよ」

「誘ったの、お前だろ……」


 あーでもないこーでもない。

 パーティを組む以上、分け前の衝突は避けられないと聞くが、いやはや。


 言い争ってると『呪胎告知』による騒音で誘引されたクリーチャー達が寄って来たため、一時棚上げ。

 いいや、もう。余ったらコンビニの募金箱に入れとこ。






「そう言えばアンタ、どうやって『呪胎告知』を避けたワケ?」

「お前の背後に密着してた。円の中心から凡そ半径七十センチ以内、つまり鎌の刃よりも内側に『呪胎告知』が及ばないことは前見た時に気付いてたからな」


 敵を掃討する強力無比な広範囲攻撃。しかし懐に踏み込めば天国のように安全。

 嘗ての実演の場が十三階層で助かった。草薮の焼け焦げや腐敗のお陰で、分かり易く測れたからな。


「……そうなの?」

「知らなかったんかい」





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