45
女性型クリーチャーを相手取る際、最も警戒すべき異能は当然『
しかし奴等の厄介さは――大抵が戦っても強いという点にもある。
「この蝙蝠ども、それぞれで魔法使えるのかよ」
四方八方より絶え間無く飛び交う、実体を持った影の刃。
床や壁の傷、響く音の重さを見聞きする限り、単発の威力は大きめの出刃包丁を投げ付けてる程度と大したものでは――当たりどころが悪けりゃ普通に致命傷だな。
なので。
「避けるべし避けるべし」
大鎌を抱いたリゼを更に抱え、回避回避。
シューティングゲームで鳴らした腕前を、まさかここで披露する羽目になるとは。
「なんで見もせず後ろからの攻撃を避けられるのよ」
「音と空気の流れ。あと勘」
尚、向こうがどれだけこの包囲網を維持出来るか不明なので、短期決戦向きの『双血』は現状使ってない。
少なくとも、打開策を講じるまでは控えるべきだろう。
攻撃激し過ぎ。容赦無しかよ、あるワケねぇな。
リゼがあと五十キロ重かったら、ちょいヤバかったわ。
「はっ、はっ、ふっ……ひとつ確信だ。蝙蝠は吸血鬼女がリモートで動かしてやがるな。攻撃に特定のパターンがあるし、そもそも蝙蝠が動いてる間、あの女やけに口数少ねぇ……はあァッ地味に息継ぎダリぃっ」
「操作に忙しいってワケね」
俺もリゼも傷を負わず、無駄な体力も削らず、避けながら注意深く観察を行い、疲れ果てる前に突破口を開く。
そんな中々の難題を前に普段以上の集中力を発揮し、反撃の取っ掛かりを掴む。
「……『呪胎告知』発動に、何秒、かかるっ?」
「五秒もあれば」
「じょーとー。割と、ギリだが、隙を作って、やれ、そう、だっ」
姫抱きにしたリゼの身体を胸元に押し付け、その心音でリズムを取る。
鼓動はっや。まあいい、左左前後左右前右後左前上後右左上上――
「っし降ろすぞ!」
「りょ」
二秒間、攻撃が空白となる位置にリゼを放る。
着地を目の端で捉えると同時、剣帯から引き抜いた水銀刀で手近な蝙蝠を叩き潰した。
これでコンマ五秒、マージン追加。
残りは……リズムが変わった。溜めに入ったリゼを脅威と捉えたのか、影の刃が集中する。
「豪血」
硬化した身体を盾に使ったところで、全方位からのリンチを庇い切るのは難しい。
故に『豪血』を選択。強化による動体視力と反射神経の向上で体感時間が引き延ばされ、周りの光景がスローになったような錯覚を受ける。
水銀刀だけじゃ手数が足りん。リビングアーマーから剣を落とさせといて良かった。
どちらも片手で扱うには重過ぎる武器だが、跳ね上がった筋力を駆使した二刀流で振り回し、迫り来る影の刃を残らず打ち落とす。
「月彦っ」
脈動し、膨れ上がる大鎌。俺の名を呼ぶリゼ。
その声音には準備が出来たことを伝えると同時「アンタはどうする気なの」という問いが含まれていた。
半径数十メートルを問答無用で吹き飛ばす、呪詛と衝撃波を孕んだ極大斬撃。
包囲された現状のまま撃てば、当然俺も巻き込まれて御陀仏だわな。
が、心配無用。
「構わず撃て。我に秘策あり」
「……りょ」
差し挟まれた逡巡は半秒ほど。そこそこ信頼関係が築けてるようで何より。
初めて会ったの二週間前だけど。
「――――ああああぁぁぁぁああぁぁッッ!!」
獣じみた咆哮。異形の大鎌から放たれる一回転の横薙ぎ。
狂った笑い声にも似た風切り音が、二十一階層の一角に反響した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます