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 深窓の令嬢を思わせる白皙。長く豊かな金髪。

 黄金律を体現した肢体に、ベルベットのマントを一枚羽織わせただけの扇情的な格好。

 敵意の欠片も匂わせず、此方に微笑みを向け遣る、まさしく絶世の美女。


〈ウフフフフッ〉


 今すぐアイツを倒せと喚き散らす理性の声が、分厚い壁でも隔てたみたいに遠い。

 霞みがかった思考、胸中を暴れる衝動。

 頭よりも、精神よりも、魂よりも、何よりも深い部分が、あの女を欲してる。


 ああ、これ、ヤバ――


「気付けネコパンチ」


 突然のショートアッパーで、俺は確かに星を見た。






「何がネコパンチだ。アゴ外れるかと思ったぞ」

「めんご」


 誠意皆無。さては謝る気が無いな。

 お陰で正気には戻れたが、結構硬いクズ魔石製のマスクにヒビ入れやがって。


 あ。でもこの割れ具合、ちょっとカッコいい。

 直さんとこ。


「……しかし、今のが女性型クリーチャー特有の『魅了チャーム』か。まんまと嵌まるとこだった」


 奴等に少しでも心動かされた者の情欲を何百倍にも増幅する魔法。

 有名だ。死ぬほど有名だ。一線級の探索者シーカーすら毎年何人も命を落とすと、講習で十回は繰り返し教わった。


 あんにゃろう。美味そうなエロボディ、ストレートに見せびらかしやがって。

 見え透いた手だが、なんて効果的。


「レジストする自信はあったんだけどな。情けねぇ」

「無理に決まってるでしょ、状態異常完全無効化のスキルだろうと突破するのよ。大学生アンタみたいな四六時中、女とヤることしか考えてない年頃の男がレジストとか、笑止」


 笑止て。

 つか凄まじい暴言。流石に傷付く。


「お前、俺を、そんな風に見てたのか」

「あ」


 わざとらしく口を覆うな。


〈ナカヨシ、ナノネェ〉


 と。並び立つ俺とリゼとの間に、影で織られた黒い鞭の一閃が、深々と線を引いた。


〈デモ、カヤノソトハ、サミシイワァ〉


 はためくマントの内側から、無数の蝙蝠が溢れ返る。

 リゼが大鎌を余裕で振るえる程度には広い廊下を飛び回り、瞬く間、俺達を取り囲んだ。


「分裂……いや、使い魔? さっきは影の中に潜ってたっぽしいし、あのクリーチャー、吸血鬼の類いか」

「ええ、そういう系統の力を使うらしいわ。種族名『イライザ』……湧くのは二十三階層以降の筈なんだけど」


 単なる検証不足だろ。女性型クリーチャーは個体数が極端に少ない。必然、データも他より揃え難い。

 尤も、ポンポン出て来られたら俺達男衆が詰む。いっそ全員、片田舎のダンジョンに引っ込んでろ。


 あと何故、種族名が個人名みたいになってんだ。ややこしい。


〈サミシイワァ、サミシイワァ、サミシイワァ。ワタシモ、ダレカト、ナカヨク、オハナシシタイワァ〉


 凶悪な面相の蝙蝠達に包囲網を作らせながら言う台詞かよ。


「友達募集中だとさ。立候補してやったらどうだリゼ」

「痴女とか勘弁。まず服を着ることから始めて。そしたら月額の相談に入ってあげる」


 まさかの月極フレンズ。

 友達料とか、この世で上位何番目かくらいに悲しい金の動きだと思う。





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