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イラつく。
折角の強敵だったのに。消化不良も甚だしい。
「そろそろ機嫌直せば? 初見で大した怪我も無く『リャンメンウルフ』を倒したのよ。誇っていいと思うけど」
「単なる向こうの自滅だ。延々と魔法を捌いてたら、勝手にフラフラになっちまった。なんつうザマだ」
「……アイツの回復速度なら、軽く百回以上は連続で魔法使える筈だけど」
「百回以上、絶え間無く捌き続けたんだよ」
分かり切ったこと聞くんじゃねぇ。
なんだ、その喜怒哀楽に含まれない複雑な感情が渦巻いてるような顔は。
「よっぽどアンタに近付かれたくなかったのね」
「あァ?」
リゼ曰く、あの人狼はペース配分も考えず無計画に魔法を繰り出すほどバカじゃない。
加えて相手の装備や構えで戦闘スタイルと凡その力量を読み取る、厄介な洞察力も備えてるとか。
「近接戦に持ち込まれたら負け確だから、必死で距離を保とうとしてたんでしょ」
ざけんな。
それでもフロアボスかよ、チキン野郎が。
過ぎた話を長々と引きずっても詮無い。
こうなったら、帰り道の戦闘で今度こそ納得の行く勝利を得ることにする。
リポップした
「しかし奇妙なエリアだな」
二十八階層を目指すというオッサン達と別れ、二十一階層を往く俺達。
古めかしい西洋城の廊下を思わせる構造。
嵌め殺し窓の外から差し込む紅い月光が、なんとも目に優しくない。
「古城エリア。建築様式とか地球のどの文明、どの時代の城とも違うらしいわ」
「そりゃそうだろ。異次元に繋がるダンジョンゲートを越えた先だぞ」
……いや。逆に、この手の建造物系エリアの存在が明らかになったことで異次元説が濃厚化したのか。
ホント、ダンジョンって不思議。
「甲府迷宮で一番稼げるのは最深部の坑道エリアだけど、この辺だって十番台階層と比べたら雲泥の差よ」
魔石の大きさひとつ取っても全然違うらしい。
ゴブリンしか居ないため、ほぼ一律十円の迷宮エリア。
二百円から四百円の樹海エリア。
五百円から七百円の平原エリア。
千円前後の山岳エリア。
以上に対して、古城エリアのクリーチャー達が落とすのは軽く三千円を回るサイズ。一階層一階層の面積も今までの優に十倍超、踏破するだけでも一筋縄では行かない。
二十六層からの坑道エリアに至っては、古城エリアの更に倍の広さだとか。
「あと湧きの頻度も多いわ。十番台階層で一回クリーチャーと出くわすまでの間に、ここでは二体三体を相手にすると思いなさい」
説明を聞くほど、リゼが二十番台階層はソロじゃキツいと言った意味を理解する。
しかも古城エリアと坑道エリア。想像通りの地形なら、恐らく『ナスカの絵描き』は全く役に立たない。
「……ほら、早速ゲストの登場よ」
「スカした言い回しだな。つか客側は俺達だろ」
「るっさい」
色褪せたレッドカーペットに足音を染み込ませ、仄暗い廊下の突き当たりから姿を見せた鈍色。
ツーハンドソードとカイトシールドを携えた、大柄なプレートアーマー。
「お、動く鎧」
「『リビングアーマー』ね。廊下に並んでる奴等が時々動き出すのよ」
そいつは面白い。無警戒に脇を歩いたらグサリか。
「ちょっと近くで見てくらぁ」
「は?」
ダッシュ。
「豪血」
強化された脚力で加速。
からの。
「鉄血」
勢い付いた状態で身体を硬化し、ショルダータックル。
意表を突かれたのか盾の防御は間に合わなかったものの、吹っ飛ばされず堪える甲冑。
が、甘い。
俺の目的を見誤ったな。
「獲ったぁっ!」
カブト、ゲットだぜ。
ほーれほれ、取り返してみろってんだ。
「あん? オイ転んだぞコイツ。成程、アタマ毟られるとバランス取れなくなるのか」
「たとえ知ってても、そうそう出来ることじゃないけどね」
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