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 魔法とは即ち、人間で言うところのスキルである。


 スロット持ちはスキルを扱い、クリーチャーは魔法を操る。

 似ているようで何かが決定的に違う、それぞれ根本の系統樹から異なる力。

 故に魔法は事象革命より四十年が経った今でも、殆ど解明が進んでいない。






 大抵のダンジョンは、二十階層で攻略難易度が跳ね上がる。

 何故なら、現れるクリーチャーが魔法を使い始めるからだ。


 世界中に散らばる九百九十九のダンジョンは、深く深くへと潜るに連れて多様性が顕著となる。

 逆説的に、浅い階層は共通点が多い。


 取り分け確かなのは魔法関連。

 一桁台、十番台階層のクリーチャー達は絶対に魔法を使えない。要はってワケだ。


 これこそ難易度を跳ね上げる最も大きなカラクリ。

 まともなスキルを持つ者と持たない者との戦力差を考えれば、上がり幅は容易に想像出来るだろう。


 だが――スキルがそうであるように、魔法とて万能の力ではない。

 強力なものほど制限があり、制約があり、大きな代償を使用者へと強いる。


 常識が通用しない超常の異能にも、異能なりのルールや方程式があるってワケだ。






「あー気持ち悪っ」


 サプリメントを大量に噛み砕き、試験管フラスコに満たされた赤黒い液体を呷る。


 サプリは鉄分補給、飲んだのは即効性の

 どちらも俺にとって必須のアイテム。二十番台階層に二日三日滞在するとなると、殊更に。


 何故なら『双血』が抱える欠点その三。

 使えば使うほど、から。


「血気盛んな俺も、流石に血を抜かれりゃサガる」


 一般的な成人男性の血液量は五リットル前後。

 しかし、その中で失っても身体が健常を保てる上限は、精々数百ミリリットル。

 なので『双血』は可能な限り、必要な瞬間のみの発動が望ましい。


「マネジメントがシビアなんだよな。歴代の習得者達も連戦中の貧血で死んだらしいし」


 多様な効果を持つ代わり、十分も連続使用すれば血が足りなくなり始める。

 に至っては、全快状態からでも一分保つかどうか。


 増血薬で手早く血を補給することは出来るが、過度に使えば内臓を壊すため、結局限度はある。

 強力な、けれど難儀なスキル。


 ……まあ、これだけの力をリスク無しに使えるなど、あまりにムシの良過ぎる話。

 文字通りの血を伴う代償程度、甘んじて受けるべきだろう。






「にしても……馬鹿な野郎だ」


 二十階層のフロアボスがリポップするまでの時間は十五分。

 少し休んだらリゼ達を呼びに行こうと思いつつ、人狼術師ワーウルフウィザードが消えたあたりに視線を注ぐ。


 …………。

 結局、まずい予想通りの結果になってしまった。


「魔法を使い過ぎて自滅するくらいなら、潔くタイマン張れやクソッタレが」


 ビビりやがって。

 何がウルフだ、チキン野郎。





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