39
ごうごうと、凄まじい火勢で燃え盛る。
灰も残さず、燃え尽きる。
――おろしたばかりの、ジャケットが。
「なんてこったい」
ドロップ品の毛皮持ち込みで支援協会紹介の職人に仕立てさせた、お値段二万八千円。
エントリーモデルの店売り防具で似たようなジャケットが五万円だったから格安だ。
気に入ってた。だいぶ気に入ってた。
後退が一瞬だけ間に合わず裾に火が点いてしまったため、脱ぎ捨てる以外に無かった。
岩肌の焦げ跡に向け、四半秒の黙祷を捧ぐ。
そして――急勾配の先に佇む下手人を見据えた。
「テメェが
筋骨隆々の肉体を持つ、白毛の
いかにも肉弾戦に自信ありますと言わんばかりの、鎧同然の筋肉を纏った体躯。
加えて、鋭利な五爪の並んだ手に握られた
とてもそうは見えないが、今し方の火柱を振り返るに魔法が使えるらしい。
「差し詰め
長柄の杖を槍の如く振り回し、挑発じみた動きを見せる
狼は犬よりも賢く、魔法使いはクリーチャーの中でも特に秀でた知能を有すると聞く。納得の所作だ。
「いいね。ワクワクするぜ」
足元に熱。火柱が立つより先、奴との距離を詰めるべく前進することで避ける。
激坂を駆け抜け、水銀刀を抜き、挨拶代わりに一撃。
危なげなく杖で凌がれ、素早い連続のバックステップで距離を置かれた。
「やるな。流石は下位と中堅を隔てる壁とまで呼ばれる二十階層フロアボス。十番台階層の雑魚とはモノが違う」
初の対魔法戦が遠近こなす両刀相手とは面白過ぎる。
なんだかんだ強いリゼが、ソロじゃ倒すのが面倒とボヤくのも頷ける。
コイツ相手に余力を残した勝利か。二十番台階層で稼いでるベテラン方は流石だな。
「まだ俺じゃあ、ちょいとばかり梃子摺りそうだ……!」
再び疾走。この激坂って地形が、また嫌らしい。
上る時も下る時も、平地を駆ける際の何倍も脚を酷使する。
「豪血」
途中で身体能力強化。合わせて深く踏み込んだ一歩で、一気に加速。
極端なチェンジ・オブ・ペース。しかも今度は攻撃の威力自体、先程より遥か上。
刀身が背中に隠れるよう、水銀刀を振りかぶる。
こうすれば出が読み辛くなる。反応が半歩遅れる。
故にこそ――水銀刀に意識が偏る。
「シャアッ!」
間合いの内側に詰め寄り、しかし放ったのは顎狙いの蹴り。
入ると思ったが、結果は長いマズルの鼻先を掠めたのみ。
ギリ反応されたか。フェイントに熱を篭め過ぎて足を出すタイミングが遅かった。
まあ、何にせよ。
「ハハハハハッッ!!」
超楽しい。
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