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「じゃあリゼ、約束通り手ぇ出すなよ。つか終わるまで待ってろ」

「りょ」


 チョコバーを齧りながらの、なんとも気の無い返答。

 俺も大概だが、この女には愛想ってものが欠けに欠けてやがる。死ぬほどテキトーに発掘された土偶かよ。


「……あ。ねぇ、ひとついい?」

「アドバイスなら要らんぞ。俺は映画とかネタバレされると観る気すら失くすタチでな」


 オッサン達の誰かが「近頃の若い奴はダンジョンを何だと思ってんだ……」と零すのが聞こえた。

 何と言われても困るが、少なくとも人生を賭すに足る楽しい場所だとは思ってる。


 ともあれ、別に助言するつもりは無かったらしいリゼ。

 寧ろ向こうが俺にものを尋ねたいのだと。


「時々、年寄り連中が壊れた機械を叩いて直そうとするじゃない」

「今、聞くようなことかどうかは兎も角、あるな確かに」


 精密機械を叩くな。直るどころか修理出来なくなるレベルで壊れるわ。


「あれロシア式修理法って呼ぶそうなんだけど、大学で留学生の子に話したら、聞いたことも無いって言うの」


 はあ。


「だったら、なんでロシア式なんて呼ぶのかしらね?」

「宇宙飛行士にでも聞け」


 七十年くらい昔に、地球滅亡サイズの隕石が落ちて来る映画があってだな。






 リゼの奴、戦闘前にトンチキな質問飛ばしおってからに。

 どうすんだよ。あの古き良き名シーンまた見たくなったじゃねぇか。


「検索、ロシア式修理法」


 ダンジョンではスマホどころか、特殊な処置を施したものを除く電子機器一切が使えないため、その特殊な処置が施された腕輪型端末のキーワード検索機能にかけるも、結果は「該当する情報はありません」。

 当然か。端末内に累積されてるのはダンジョンやスキル、クリーチャー関連のデータだものな。

 地上に出たらスマホで観よう。


「と、そう言えばスマホ壊れたままだ」


 いい加減に買い換えなければ。先日、学費の残りを全額前払いしたから金無いけど。

 二十番台階層のクリーチャー共に用立てて貰うとしよう。


「となれば、ここで負けてちゃオハナシにならんワケだ」


 フロアボスは同階層帯の危険度水準を大きく突き抜けたクリーチャーだが、魔石もドロップ品も落とさない以上、ダメージを受けるのは割に合わぬ相手。

 腕試し目的ならまだしも、二十番台階層進出が前提である今回は、余力を残した勝利こそ肝要。


「燃えるね」


 縛りプレイや条件付きクリアなどの逆境は大好物だ。

 ふつふつ滾るものを胸に感じつつ最後の一段を降り、山岳エリア最後のステージへと足を踏み出し。






 燃え盛る火柱に、呑み込まれた。





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