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 ──十七階層。


「降りるついでにロックマン見かけたら倒しましょ。宝石欲しい」


 ロックマンが擬態してそうな岩に蹴りを浴びせつつの、物欲満載な台詞。

 生憎そいつは、ただの岩だ。


「時間の無駄だと思うがな。ドロップ率は千分の一だぞ」

「倒さなきゃゼロじゃない」


 ふむ。その通り。






「そう言えばアンタ、さっき何したワケ?」

「なんのことだ」


 すっとぼけ。


「十三階層の件よ。死にかけを解毒したの、アンタなんでしょ」


 まあ普通はそう考えるよな。

 だがしかし、そいつはちと間違いだ。


「俺は解毒なんぞしてない」

「嘘」

「いや本当。、してない」


 敢えて解毒の部分を強調。

 リゼは俺の口ぶりに含みこそ感じつつも、明確な答えは出せなかったのか、ふてくされ気味に肩をすくめた。


「……私は自分のスキル、全部教えたのに」

「拗ねるなよ。教えないとは言ってねぇだろ」


 種明かしを期待する視線が、じっと向けられた。


「いや今は教えねぇけどな。暫く内緒だ」

「いじわる」


 よく言われる。


「鬼畜」


 そいつは初めて言われた。


「非国民」


 それは言い過ぎ。






 悪辣な単語で散々に人を詰ってきたものの、実際は大して気にも留めてなかったのか、五分もすると欠伸混じりにガムを噛み始めたリゼ。


「あ、ロックマン居た」


 色気の無い殺風景な岩場が続く山岳エリアでも『ナスカの絵描き』は性能を発揮する。

 金の卵を産むとも分からん獲物を見付けたリゼは、担いだ大鎌を構え、走り出す。


「どこだ」

「そこの窪地。三体固まってる」


 言うが早いか、数メートルの崖で囲まれた岩場に飛び降りるリゼ。

 接敵に気付き擬態を解くロックマン達だが、些か遅きに失した。


 禍々しい大鎌の一閃。

 逆袈裟に胴を断たれた一体目が、力無く倒れ伏す。


 次いで振り下ろす勢いをそのまま回転に繋ぎ、遠心力の加算で初撃より威力が増した第二撃。

 振り抜く速度に一瞬遅れて、左半身と右半身を両断される二体目。


「三体目は……コンボ射程外」

「じゃあ俺が」


 水銀刀を抜く。


「豪血」


 ウスノロなデカブツに小細工など不要。

 赤光奔る右手に握った得物を、肩口目掛けて力任せに打ち下ろす。


 衝突より一拍後、ロックマンの上半身が粉々に爆散した。

 これ『豪血』要らなかったな。まあいいか。






 消えたロックマン達が倒れていた周辺を探す。

 砂利に紛れた真っ黒な魔石を見つけ出すのは面倒だ。


 まあ、天然の魔石は何故か必ず正十二面体だから、石と間違えることは無いんだが。


「ロックオパールあった?」


 ガムを噛み終え、今度はチョコを食べ始めたリゼが聞いてくる。

 甘いもんばっか食って、今に虫歯に……ならないのか。マジ『消穢』便利。

 つか、たった三体で落ちるワケねーだろ。


 ――俺が居なければ、な。


「運の良い奴め。ほれ」

「え、ホント?」


 砂利の中に、或いは七色の輝き。

 甲府迷宮十番台階層に於いて最もレアなドロップ品である宝石を、ぽいと投げ渡す。


「やりっ。新作コスメ揃えられるじゃん」


 化粧品が欲しかったのか。

 なら、のは一体分で事足りるだろ。





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