36
──十七階層。
「降りるついでにロックマン見かけたら倒しましょ。宝石欲しい」
ロックマンが擬態してそうな岩に蹴りを浴びせつつの、物欲満載な台詞。
生憎そいつは、ただの岩だ。
「時間の無駄だと思うがな。ドロップ率は千分の一だぞ」
「倒さなきゃゼロじゃない」
ふむ。その通り。
「そう言えばアンタ、さっき何したワケ?」
「なんのことだ」
すっとぼけ。
「十三階層の件よ。死にかけを解毒したの、アンタなんでしょ」
まあ普通はそう考えるよな。
だがしかし、そいつはちと間違いだ。
「俺は解毒なんぞしてない」
「嘘」
「いや本当。解毒は、してない」
敢えて解毒の部分を強調。
リゼは俺の口ぶりに含みこそ感じつつも、明確な答えは出せなかったのか、ふてくされ気味に肩をすくめた。
「……私は自分のスキル、全部教えたのに」
「拗ねるなよ。教えないとは言ってねぇだろ」
種明かしを期待する視線が、じっと向けられた。
「いや今は教えねぇけどな。暫く内緒だ」
「いじわる」
よく言われる。
「鬼畜」
そいつは初めて言われた。
「非国民」
それは言い過ぎ。
悪辣な単語で散々に人を詰ってきたものの、実際は大して気にも留めてなかったのか、五分もすると欠伸混じりにガムを噛み始めたリゼ。
「あ、ロックマン居た」
色気の無い殺風景な岩場が続く山岳エリアでも『ナスカの絵描き』は性能を発揮する。
金の卵を産むとも分からん獲物を見付けたリゼは、担いだ大鎌を構え、走り出す。
「どこだ」
「そこの窪地。三体固まってる」
言うが早いか、数メートルの崖で囲まれた岩場に飛び降りるリゼ。
接敵に気付き擬態を解くロックマン達だが、些か遅きに失した。
禍々しい大鎌の一閃。
逆袈裟に胴を断たれた一体目が、力無く倒れ伏す。
次いで振り下ろす勢いをそのまま回転に繋ぎ、遠心力の加算で初撃より威力が増した第二撃。
振り抜く速度に一瞬遅れて、左半身と右半身を両断される二体目。
「三体目は……コンボ射程外」
「じゃあ俺が」
水銀刀を抜く。
「豪血」
ウスノロなデカブツに小細工など不要。
赤光奔る右手に握った得物を、肩口目掛けて力任せに打ち下ろす。
衝突より一拍後、ロックマンの上半身が粉々に爆散した。
これ『豪血』要らなかったな。まあいいか。
消えたロックマン達が倒れていた周辺を探す。
砂利に紛れた真っ黒な魔石を見つけ出すのは面倒だ。
まあ、天然の魔石は何故か必ず正十二面体だから、石と間違えることは無いんだが。
「ロックオパールあった?」
ガムを噛み終え、今度はチョコを食べ始めたリゼが聞いてくる。
甘いもんばっか食って、今に虫歯に……ならないのか。マジ『消穢』便利。
つか、たった三体で落ちるワケねーだろ。
――俺が居なければ、な。
「運の良い奴め。ほれ」
「え、ホント?」
砂利の中に突然現れた、或いは初めから其処に在った七色の輝き。
甲府迷宮十番台階層に於いて最もレアなドロップ品である宝石を、ぽいと投げ渡す。
「やりっ。新作コスメ揃えられるじゃん」
化粧品が欲しかったのか。
なら、差し替えるのは一体分で事足りるだろ。
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