35






 ──十三階層。


 ギフトボックスの爆発で綺麗さっぱり消し飛んだ一帯は、既に何事も無かったかのように元通り。

 当然、歩みを遮る鬱陶しい草薮も元通り。


「今、剣戟の音がしなかったか?」

「したわね。あっちで誰か戦ってるわ」


 前回同様、リゼに刈って貰いながら進んでると、風に乗って金属のかち合う音。

 リゼが『ナスカの絵描き』で見た光景によれば、四匹のスプレーパイソンと三人の探索者シーカーが戦闘中らしい。


「邪魔すんのも悪いな。階段まで少し遠回りになるが、迂回するか?」

「普通に負けそう」

「嘘だろ」


 スプレーパイソンとか雑魚じゃねぇか。


「アンタはフィジカルお化けだし『鉄血』に毒耐性も付いてるから弱く感じるでしょうけど、アレ本当なら割と厄介なクリーチャーなのよ。鱗も金属並みに硬いし」

「マジでか」


 そうこう遣り取りするうち、腕輪型端末がビービー鳴り始めた。

 バイタル値が危険域に入ると、同階層の探索者シーカーに自動で発信される救難信号をキャッチしたのだ。


「うるせぇ。どうやって止めんだコレ」

「あっちの連中が死ぬか助かるかすれば鳴り止むわね」


 マジか。じゃあ、しゃあない。


「節介焼きは趣味じゃねぇが、助太刀するか」

「りょ」






 無防備に食らえば大男だろうと十五分であの世行きの毒さえ効かなきゃ、噛み付く牙すら無いスプレーパイソンはホントに雑魚だ。

 駆け付けて二十秒くらいで片付いた。一匹あたり五秒、水銀刀を使うまでもなかった。


「お前の鎌すげぇよな。ナイフくらいじゃ刃が立たねぇ鱗が、熟れた桃でも切るみてーにスパッと行きやがる」

「『呪胎告知』の触媒にずっと使ってたから、貰った時より斬れ味上がってるのよね。ついでに見た目も変わっちゃったし」

「カッコいいじゃねぇかよ」

「カッコいいのは間違い無いわ」


 魔石を拾い、集積用の巾着に詰め、そいつを更に圧縮鞄へと放り込む。

 さて。あとは未だにビービー煩い腕輪の元凶、死にかけらしい御同輩の始末だが。


「た、助かったよ……っ、なあ! 解毒薬持ってないか!? 金なら払う、譲ってくれ!」


 憔悴した二人、横たわり青ざめた顔色でガタガタ震える一人。

 泡吹いてら。スプレーパイソンの毒を食らうと、こうなるのか。


「リゼ持ってるか?」

「毒が効かないのに持ってるワケないでしょ。アンタは?」

「毒が効かないのに持ってるワケねぇだろ」


 お互い、所有するスキルの利便性が裏目に出た。

 何にせよ、このままだと御陀仏だ。わざわざ助けたのに死なれちゃ後味が悪い。


 …………。

 なんちゃって。


「心配すんな。そもそもコイツは、

「はぁ!? アンタ、何ワケの分からないこと――」


 俺の言葉に名も知らん探索者シーカーが怒声を張るも、最後まで続かない。

 此方が指差した先の光景を。


「……う、うう? あれ? 痺れと寒さが……消え、た?」


 既に自分の意思では動けない状態にあったろう仲間が、平然と起き上がる姿を見たから。


「ほらな?」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る