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「えー、本日のアタックでは二十番台階層を目指して粉骨砕身――めんど。やめやめ」
ゲート前。大鎌の石突で足元を叩いたリゼが気取った挨拶を述べようと口を開くも、五秒と待たず失速。
出だしの時点でグダるんじゃありませんよ。少しはファイトってもんを見せやがれ。
──五階層。
「腰回りきついと思ったら、ベルトの穴ひとつ間違えてた」
全身ギチギチに巻き付けてりゃ、一本や二本は間違えもするわな。
「聞くタイミング掴み損ねてたが、動きにくくねぇのか?」
夥しい数のベルトの下はパツパツのレーシングスーツもどき。どちらか片方でも動きを酷く阻害されように。
「それ素人判断」
「あァ?」
リゼは噛んでたガムを吐き出すと、ちょうど通路の角から現れたゴブリンに迫る。
軽快なスプリント。
構えた大鎌の石突きで床を打ち、棒高跳びの要領でゴブリンを飛び越え、背後を取る。
そのまま何の対応も許さず、己へ振り返ろうとする無防備な首を横薙ぎに断った。
「どや」
「おー」
思わず漏れる感嘆。
考えてみればリゼのスキルを用いない通常戦闘を見るのは初めてだが、結構な腕達者で。
流石、パーティ推奨の甲府迷宮二十階層フロアボスをソロで倒せるだけのことはある。
──十階層。
「カッコだけで、こんな数のベルトいちいち付けたり外したりしないわよ」
「カッコいいと思ってたのか」
「カッコいいでしょ」
カッコいいけども。
「このベルトは巻いた部分の筋力を少しだけ強めてくれるの」
突進するベヒ☆モスをサイドステップで躱し、返す刀で大鎌を斬り上げる。
重心の不安定な武器、力が入り辛い姿勢だったにも拘らず、分厚い毛皮と筋肉で守られたベヒ☆モスの脇腹を、切っ先が深々と抉る。
「で、スーツの方はスライムスキンが素材」
「すげぇ高級品」
スライムスキン。
名が示す通り、誰でも知ってる超有名クリーチャーであるところのスライムがドロップ品として落とす、奴等の身体の一部。
平たく言うとスライムにとって唯一の急所、心臓と脳を合わせたような存在である核を覆うゲルのこと。
液体ながら自在に動き回り、鉄の棒も易々ヘシ折るほど力強い、誰が呼んだか別名を『筋肉水』。
こいつを加工した衣服は、着用すれば寝たきりの老人だろうと起き上がって歩けるようになるほどの効果を齎す一種のパワードスーツ。
全身に纏えば、五歳か六歳の幼子でもヘビー級プロボクサーを殴り倒せる代物。
「ベルトと合わせた二段強化のお陰で、か弱い私は凶暴凶悪なクリーチャーの攻撃を避けたり、厚い防御を貫けたりするワケ」
寸分違わず初撃の傷口を狙った二撃目が、より深く、今度は臓物を致命的に抉る。
ベヒ☆モスは断末魔の悲鳴と血の泡を吐き散らし、煙の如く消えた。
……本人はああ言ってるが、決して底上げされた筋力に依存した戦闘スタイルってワケじゃねぇな。
恐らく今の応酬、スーツを脱いでも過程や結果は一切変わらなかった筈。
あとついでに、もうひとつ気付いた。
「お前ほっそいくせ、そこそこ胸あんのな」
「ふふん」
なんかドヤ顔された。
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