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 時、来たれり。


 探索者支援協会の受付で用件を伝え、トレーニングルームに通される。

 そこで俺を待っていたのは、引き渡し担当の職員と、布を被せられた注文品。


「受取のサインを」


 気もそぞろ、タブレットにペンを滑らせ、取引完了。

 一礼する職員を尻目にも据えず、分厚い布を引き剥がす。


 ――鈍い銀色が、露わとなった。






「コイツが『水銀刀すいぎんとう』の実物か」


 水銀の名を冠しつつ、素材は似て非なる液体金属。

 刀を謳いながらも刃は分厚く、寧ろ鉄鞭などの鈍器に近い形状。


「想像より小さいな……『ドラゴンころせるかも』のイメージに引っ張られてたか」


 水銀刀。函館の酔狂な剣工が手掛けた『奇剣シリーズ』の一本。

 液体金属を剣の形に留めるという、一種の矛盾にも聞こえる発想を実現することで得た究極の粘り――単なる硬さだけでは到達不可能な強靭性と耐久性をコンセプトにした不壊の剣。


 液体ゆえ研磨が不可能で、斬れ味は皆無。

 加えて、差し渡し三尺近い刀身は外見以上に重く、本来の刀とは異なる意味で使い手を選ぶ代物。


 ストレートに剣と呼ぶことすら憚られる。

 ああ、まさしく奇剣。


「作った奴は何を考えてたんだ」

「シリーズのいずれかを手に取られたユーザーの方々は、大抵同じことを仰います」


 やっぱりか。

 とは言え、一部のニッチな層に熱心な愛用者が居ると聞くし、ベクトルが明後日の方を向いてるだけで、性能は確かなんだろう。

 ……きっと。


「俺に買える価格帯の重量級武器で一際に異彩を放ってたから、思わず早押しクイズ並みの脊髄反射でポチったが……大丈夫、だよな? 八十四万円ねだん相応には使えるよな?」

「計画性に欠けますね」


 うるせぇ、ドングリぶつけんぞ。





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