30
「やべぇやべぇ。これをマジに忘れてた」
帰り際になって思い返し、圧縮鞄の隅に入れてた包みを出す。
中身は、似合いそうな服を何着か。
「好みに合えば、退院したら使ってくれ」
「あ……重ね重ね……ありがとう、ございます」
反応鈍いな。吉田の奴、今度会ったら蹴りくれてやる。
……いや。どうも服が気に入らなかったワケじゃなさそうだ。
「心配事でもあるのか?」
返答は沈黙。即ち肯定。
まあ、大体の見当はつく。
「手術のことか?」
つむぎちゃんの肩が小さく跳ねる。
嘘の吐けないタイプだな。
「……怖いん、です。どうしても、悪い方に考えちゃって」
事象革命は、医学薬学の面に於いても多大な発展を齎した。
嘗て患者の半数が術後十年と生きられなかった心臓移植も、現代では九割以上が後遺症も無く健常に過ごせている。
しかし、やはり失敗の確率も僅かなれど存在する。
つむぎちゃんは聡い子だ。それだけに不安を拭い切れないのだろう。
「心配するな……てのは無責任か」
俺、手術を執刀する医者でもなんでもねーし。
どうすれば少しでも気を楽にしてやれるか、考える。
思い付いた。ポンと手を打つ。
「よし分かった。当日は俺も顔を出そう」
唐突な提案に、つむぎちゃんの目が丸くなる。
「何せスロット移植成功率三十八パーセントを引き当てた男だ。ほぼ十割成功する手術の是非なんぞ軽い軽い」
敢えて大口。
いや。今となっては、満更ビッグマウスでもないか。
ともあれ、ガラにも無い気遣いが功を奏したのか、最後には、つむぎちゃんも笑ってくれた。
伝え聞いた手術日は確認したところ講義が入っていたけれど、サボることにする。
やれ気分屋だ気まぐれだと幼少期から言われ続け、実際その通りな俺だが、それなりに約束は守る方だし。
「そんなこんなで、一人の悩める少女を見事勇気付けた。下手なクリーチャーと戦う方より、よっぽど難業だったぜ」
「……うわ、似合わなっ」
その風船ガム、顔に貼り付けられたいのかテメェ。
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