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「やべぇやべぇ。これをマジに忘れてた」


 帰り際になって思い返し、圧縮鞄の隅に入れてた包みを出す。

 中身は、似合いそうな服を何着か。


「好みに合えば、退院したら使ってくれ」

「あ……重ね重ね……ありがとう、ございます」


 反応鈍いな。吉田の奴、今度会ったら蹴りくれてやる。

 ……いや。どうも服が気に入らなかったワケじゃなさそうだ。


「心配事でもあるのか?」


 返答は沈黙。即ち肯定。

 まあ、大体の見当はつく。


「手術のことか?」


 つむぎちゃんの肩が小さく跳ねる。

 嘘の吐けないタイプだな。


「……怖いん、です。どうしても、悪い方に考えちゃって」


 事象革命は、医学薬学の面に於いても多大な発展を齎した。

 嘗て患者の半数が術後十年と生きられなかった心臓移植も、現代では九割以上が後遺症も無く健常に過ごせている。


 しかし、やはり失敗の確率も僅かなれど存在する。

 つむぎちゃんは聡い子だ。それだけに不安を拭い切れないのだろう。


「心配するな……てのは無責任か」


 俺、手術を執刀する医者でもなんでもねーし。


 どうすれば少しでも気を楽にしてやれるか、考える。

 思い付いた。ポンと手を打つ。


「よし分かった。当日は俺も顔を出そう」


 唐突な提案に、つむぎちゃんの目が丸くなる。


「何せスロット移植成功率三十八パーセントを引き当てた男だ。ほぼ十割成功する手術の是非なんぞ軽い軽い」


 敢えて大口。

 いや。、満更ビッグマウスでもないか。


 ともあれ、ガラにも無い気遣いが功を奏したのか、最後には、つむぎちゃんも笑ってくれた。

 伝え聞いた手術日は確認したところ講義が入っていたけれど、サボることにする。

 やれ気分屋だ気まぐれだと幼少期から言われ続け、実際その通りな俺だが、それなりに約束は守る方だし。






「そんなこんなで、一人の悩める少女を見事勇気付けた。下手なクリーチャーと戦う方より、よっぽど難業だったぜ」

「……うわ、似合わなっ」


 その風船ガム、顔に貼り付けられたいのかテメェ。





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