29
退屈を持て余した入院患者は大抵、話し相手に飢えてる。
畳み掛けて俺は
瞬く間、時計の針は進んだ。
「――と、忘れてた。土産を持って来てたんだ」
本当は別に忘れてなかったけど、受取拒否されては困るので一般面会時間が差し迫った頃合を見計らい、さりげなく切り出す。
万一の際は時間を理由に帰る予定。俺って策士。
「それ、マジバですか?」
まじば? なんだそりゃ……あ、マジックバッグね。空間圧縮鞄の別称。
最近の中学生は
五歳も離れると別世界の住人、とは上手いこと言ったもんだ。
「昨日買ったばっかでな。どうも馴染まん」
細長いボディバッグ型の圧縮鞄。内部空間容量は、注文した武器の収納を想定しての約二畳。
手を突っ込むと、温度の無いゼリーみたいな感触。濡れるワケじゃないが気持ち悪い。
「つーか前は悪かったな。味気無い見舞金だけで」
「……お父さんとお母さん、後で封筒開けて腰抜かしてましたよ……幾ら入れてたんです?」
忘れた。
でかい熊のぬいぐるみ。
季節のフルーツを盛り合わせたバスケット。
人気店のドーナツ欲張りセット。
予約一ヶ月待ち当たり前なエステの優待券。
本屋の一等地で平積みされてたラノベ。
年頃の子が何を喜ぶか分からんので、慣れてそうなチャラ男の吉田に助言を貰い、手当たり次第に買って来た。
つむぎちゃんの反応は……顔、引き攣っとる。
「しまった、花を忘れてた。気の利かねぇ男だ、全く」
「いえあの、そうじゃなくて。多いです。ぬいぐるみとか凄く高そうだし、貰えないです」
なんとも慎み深い、奥ゆかしい子だ。
とは言え、貰ってくれなければ困る。
「ここに並べた見舞品を買った金は、ダンジョンで得たものだ」
「え?」
「君の兄貴は君のため、払いの悪い俺に相場を二千万以上も下回る額でスロットを売ってくれた。そのお陰で俺は
望めば易々と得られるものでは無い才能を手放す。唯一無二の妹のためであれ、内心、葛藤は大きかった筈。
互いの利害一致に依るところの大きい契約だろうと、恩義と敬意を感じてる。
「受け取ってくれ。こっちにとっちゃ、俺は借りてる側なのさ」
そう告げると、つむぎちゃんは暫し黙考を挟んだ後、おずおず頷いてくれた。
良い子だ。
土産ついでに、武器防具諸々や圧縮鞄となどの買い物を差っ引いても尚余った八十万ばかりを渡そうとしたら、普通に断られた。
貰ってくれると非常に助かるのだが、駄目か。
それもこれも、ロックオパールが品薄で値上がりしてたのが悪い。
不要な大金は持ちたくない。身軽でありたいのだ。
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