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 十階層に続く階段を上り、牛サイ――『ベヒ☆モス』なんて名前負けも甚だしいフロアボスを捻り殺し、そのまま九階層への階段に足をかける。

 ちなみに何故☆マークが付いているかと言うと、既に『ベヒモス』は別クリーチャーの命名に使用済みだったからとか。


「にしたって無理矢理過ぎだろ」


 フロアボスの坐す階層は特殊で、大抵が直径数百メートル程度と他階層より明らかに小さい上、そいつ以外のクリーチャーが居ない。

 ぼっちのくせボスとは、これ如何に。


「ここらで少し休憩と行くか」


 半分ほど進んだあたりで、腰を下ろす。


 各階層同士を繋ぐ長い階段は、一種のセーフティゾーンだ。

 平時に於いてクリーチャーは階層を跨がない。つまり階段部に敵影は無い。

 格上の探索者シーカーから逃げる時とか、まあ幾つか例外こそあれ、一本道な上に音も良く響くため、異変があれば察知も容易い。

 横になったりは流石に厳しいが、飯を食うくらいの小休止には打って付けなワケだ。






「いや違うから。パーティに見捨てられた荷物持ちポーターとかじゃねーから」


 ハンバーガーを貪り食った後、二十番台階層に向かう道中と思しき数人の探索者シーカーと出くわしたので軽く挨拶を交わし、再び上を目指す。


 甲府迷宮の一桁台階層は、平均面積が迷宮エリアの倍以上ある樹海エリアでも直径五キロあるか無いか。階段の位置と道筋さえ把握していれば、登り降りに時間は取られない。

 こういう交通アクセスの良さが、下層を活動区域とする中堅方に密かな人気を得ている理由らしい。


「……普段着でリュック背負いながら潜ってると、ああいう誤解受けたりするのか」


 てか、なんで微妙にワクワクしながら聞いてきたんだ、あの連中。

 古いラノベの読み過ぎだ。





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